【前回の記事を読む】広がりつつある異国船の噂…国家に関わる機密を隠し通せるか

異国船難破

萱野軍平は異国船の戦闘能力を知るためには、異国人の物の考え方や生活様式も知る必要があると、あらゆるものを船から下ろした。

船室や船長室には机、椅子、燭台などの調度品、ろうそく、寝具、服、幾つもの雑貨が入った箱などの生活用品の他、首飾りやペンダント、金製の王冠、宝石などが入った箱があった。それらはすでに蓋が開けられ、物色された痕があった。吹の村人の仕業である。

積み荷には中国船から略奪したと思われる大量の皿、(うつわ)、壺などの焼き物、梱包された書画や骨董品の類、その他に香料、朝鮮ニンジン、甘草、樟脳、ジャ香などの薬物が入った箱があった。

後で、この異国船は海賊船であることがわかったのだが、水につかった船倉には小判や二朱金、銀などのつまった千両箱がいくつかあったのは、日本の船も襲ったということなのだろう。

船室から甲板に繋がる通路の棚に並ぶ百丁近くの鉄砲と、火薬庫から弾薬、弾などもすべて回収した。鉄砲は日本でなじみのある火縄銃ではなく、フリントロック式という火打石を使って発火する銃だった。日本には良質な火打石が取れなくて、その方式の鉄砲は発達しなかったという事情がある。

船長室には航海するための海図、日本海周辺地図、世界地図などがあり、天体図と思われるものもあった。六分儀(操船するために緯度、経度を測る道具)、遠メガネ(望遠鏡)、異国語で書かれた航海日誌、バイブル、オランダ語の操船術の本、大砲の仕様や製造に関する英書や砲術書などの書物があった。