健一の障害の症状
健一の障害名は、先天性脳性麻痺による四肢体幹機能障害だ。脳性麻痺とは、妊娠中から乳児期に、何らかの原因で脳が損傷を受け、体を動かす機能が障害されることによって起こる症状の総称をいう。よって病気ではない。
脳性麻痺は、ポリオ(小児麻痺)という脊髄の感染症から生じる麻痺と区別して、「脳性小児麻痺」とも言われている。脳性麻痺の定義にはいわゆる「知的障害」は含まない。脳の障害であるため、時として知的障害を合併していることもあるが、合併症はどんな疾患にもありえることだ。
また、脳性麻痺は遺伝性でも、感染性の病気でもない。その症状は、身体の一部に限られたものから全身に及ぶもの、またその強さがわずかに違和感を伴う程度の軽いものから、手や脚がねじれてギプスや松葉杖、車椅子が必要になるほど重いものまでさまざまだ。
麻痺の形で多いものが、「痙性麻痺」と呼ばれるものだ。これは、麻痺した手足が痙直した(いわゆる突っ張った)麻痺である。健一の症状の特徴は、四肢や躯幹筋(頭と手足を除いた胴体部分の筋肉)の痙直だけではなく、身体が自分の意思とは無関係に動いたり震えたりする、不随運動が伴うことだ。
健一は幸いなことに、普段の状態であれば、ほぼ普通に歩くことはできた。しかし、その症状は僅かな緊張によって大きく増幅した。たとえば同じコップを持つのでも、空っぽのものは手が震えることもなく普通に持てるが、中に水などの液体が入っていると、手から腕や肩にかけて痙直し、激しく震えて持てなくなる。特に右手の親指は、手のひらの内側にカギ型に突き刺さるように痙直してしまうのだった。