スタチン系薬剤と横紋筋融解症と筋肉障害
②抗癌剤による末梢神経障害
スタチン系薬剤からいったん離れますが、ここからは主に加藤明彦著『いまさら訊けない!がん支持療法Q&A』(中外医学社、2018年)からの抜粋になります。末梢神経障害を起こす神経細胞の部位は細胞体、軸索、髄鞘の3カ所に大別されるそうです。また抗がん剤の種類によって障害を与える部位が異なります。
1.細胞体への影響:
神経細胞の本体部分になるので場合によっては細胞死にもつながり、障害の影響が大きく残るため抗がん剤を中止しても回復には時間が長くかかり、場合によっては回復困難ともされます。シスプラチン、オキサリプラチンなど白金製剤の抗癌剤に多いとされます。
2.軸索への影響:
各種タンパク質の移動通路であり、かつ活動電位の伝導路なので、さまざまな手足のしびれや痛み、さらに遠位部の筋萎縮が起こる場合もあるようですが、細胞体本体への影響は少ないため、早期の薬剤中止によって改善は可能とされます。パクリタキセルやビンクリスチンなどの抗がん剤の他に、コルヒチン、HMG-CoA還元酵素阻害剤(著書の中ではHMG-CoA還元酵素剤と表記されていましたがスタチン系で間違いないでしょう)も含まれます。
3.髄鞘への影響:
髄鞘が一時的に脱落して活動電位の速度が遅くなっても細胞体や軸索機能は残されているので、早期に薬剤を中止すれば改善は可能とされます。筋萎縮と筋力低下などの運動神経障害を起こしやすいとされます。インターフェロンのほか、アミオダロンやタクロリムスの名前が挙がっていました。
③まとめ
私自身の勝手な思い込みで、スタチン系の筋肉関連の副作用は全て横紋筋融解症がらみでユビキノン合成阻害という薬理作用型と考えていましたが、末梢神経細胞の軸索への直接的な作用も影響しているようです。
抗がん剤による急性症状以外の手足のしびれ等の末梢神経障害は、投与後2~3週間程度経過してから発症してくるようなので、副作用の機序別分類では早期に発現するであろう薬理作用型というよりも、ある程度時間経過を要する薬物毒性型と考えた方が妥当かもしれません。
スタチン系薬剤が、もし軸索上のランビエ絞輪にあるNaチャネルを特異的に阻害する副次的な薬理作用を示すとしたら、心臓等に存在するNaチャネルにも重大な影響を与えているはずですが、添付文書を見る限り心血管系に大きなダメージを及ぼすような副作用の項目は見当たりません。従って、スタチン系薬剤の筋肉障害の副作用機序はユビキノン合成抑制がらみの薬理作用型と末梢神経軸索障害がらみの薬物毒性型の2つが混在しているのではないかと思ったわけです。