不整脈

心臓は電気によって動かされている点で器械と同じです。交感神経と副交感神経で脈拍数が調節されますが、右心房には洞房結節があり、そこから電気刺激が始まり、房室結節を経て電気回路が左右の心室に至って心臓が収縮します。この回路のどこかで障害が起これば不整脈が生じます。不整脈に関しては、多数の薬剤が開発されてきましたが、人工ペースメーカーの開発とその応用ほど、多くの患者を救った機器はないでしょう。これも米国のグレートパッチという技術士とメドトロニックという会社によるものでした。それは一九六〇年代の頃です。

ペースメーカー装着を必要とする心臓病は、かなり多いものです。私の身内にもありました。私の家内が八十歳になったとき、ある夜、右の肩痛と吐き気、脱力感を訴えました。翌日、近医で診てもらったところ、心拍数が毎分三十くらいしかないと言われ驚きました。心電図で見ると、完全房室ブロックでした。心房と心室との間の刺激伝導系が遮断されているのです。

すぐに救急車で心臓専門病院に運ばれ、とりあえずは前胸部の静脈からペースメーカーを入れて右心室を刺激し、心拍数を増加させました。その後、恒久的なペースメーカーを植え込み、現在は普通に生活しています。

もしこれが四十年前のことでしたら死亡は免れなかったでしょう。私はその頃、同じような患者を虎の門病院の循環器内科の病床で担当していました。だが打つ手はありませんでした。東大胸部外科の二人の医師が、我が国でははじめてのペースメーカー装着を試みましたが失敗し、患者は亡くなりました。

私の二歳年下の弟は、時々失神する発作がありました。24時間心電図で精査したところ、脈拍が毎分三十拍ぐらいになることがあり、心房細動が一過性に起こることが分かりました。問題は右心房にあり、洞機能不全症候群と診断され、ペースメーカーを装着しました。今は何ともなく失神発作もありません。

以上のように、現在では手軽にペースメーカー療法が可能となり、多くの患者がその恩恵に浴しています。