夏島高校のラインアウトのタイミングを、この試合の中で読んできたのだろう。寺島くんのジャンプは、相手を脅かすに十分だった。スクラムハーフの混乱に圧力をかけたのが保谷くんと西崎くん。こぼれたボールを、相手ゴールラインに龍城ケ丘のフォワードが押さえ込む。この時点で、5対7。コンバージョンゴールの行方で、試合の結果は決まる。

龍城ケ丘の三年生の、慎重に狙ったキックは、わずかに逸れた。レフリーの笛が、ノーサイドを告げる。

わずかコンバージョンゴール一本の差で敗れたメンバーは、それでも納得した顔でベンチに引き揚げてきた。山本先輩も、花田先生も、穏やかな笑みで彼らを迎える。敗れたとはいえ、彼らの健闘を、誰が否定できるだろう。だから、それは当然のことなのだ。でも、もっと何かできたんじゃないだろうか、何かが足りなかったんじゃないんだろうか。佑子の胸にある焦りは消えない。

たった一人から、ここまでの存在感を示すようになった大磯東ラグビー部。それは、欲なのだ。とても健全で、正しい欲。

佑子の前に、足立くんを中心に輪ができる。完全燃焼したのか、足立くんは真正面を向きながら無表情のままだ。

「お疲れさま。みんな、頑張ったね」

佑子は、一生懸命高ぶりを抑えながら生徒たちを労う。感情に身を委ねてしまうわけには、やはりいかない。抑制の気持ちも、やっぱりはたらく。

でも、その後の言葉が出てこない。話したい事はたくさんあるのに。この生徒たちを誇りに思い、この生徒たちをいとおしく思い、この生徒たちに、何かをしてあげたいと思っているのに。

しばしの沈黙が、足立くんに言葉を促すことになった。キャプテンという立場は、時に指導者をはるかに凌駕する。