八月〜十月
「事情はなんとなく分かったよ。でもだとするとますます俺ができることなくない? 紹介もなしに初対面でいきなり話しかけるのは難しいよ。それでも誰かが話しかけないと始まらないとしたら、桃が行った方が良くないか? 俺よりは事情もよく知っているし、歳だって近いだろ」
本当は何歳か知らないけれど。いったいいくつなんだ、こいつは。ついでに言うと、その見た目なら俺よりはるかに女の子にモテるだろ、と思ったがそれは自尊心が邪魔して言えなかった。
「俺の師匠が、あの年頃の娘は少し年上くらいのお兄さんが、いい相談相手になるだろう、と言っていた」
その「少し年上」がどれくらいを指すのが分からないが、それにしてもやはり相手によるんじゃないか。
「それに俺は、身分を証明できない」なるほど、それは大きな問題だ。俺も彼の身分を知らない。申し訳ないが彼が犬だという話はまだ信じていない。
「ちなみにその師匠って人に相談した時、他に何かアドバイスもらわなかったか?」
「そうだな。今現在特にやりたいことがなければ、とにもかくにも大学に進学するなりで環境を変えれば道が開けてくるんじゃないか、だから頑張って卒業して進学させてあげれば良い、と言っていた」
間違いではない。俺も高校の時は将来が見えなくて不安だったが、とりあえず大学に受かるという目標だけで毎日頑張った。そして進学してみたら、それなりに刺激があって、世界が広がった気がして、流れに乗ったまま就職までできた。もっとも、それもみんながそうとは限らない。大学が合わなくて退学したり、中には音信不通になったやつもいる。
それにしても、その師匠、言うことがちょっと一般論過ぎないか。そしてアドバイスするだけじゃなく助けてやればいいのに、と思ったが「まあエラい人なんてそんなもんだろう」とも思った。俺は今でも結構、大人を信じていない。桃が言うその師匠がはたして「人」なのかは分からないけれど。