七月
七月に入ってから最初にヒカルと会ったのは、三週目の金曜日だった。天気予報によると、今年はまだまだ梅雨が続きそうである。この時期って、学校はもう夏休みに入っているのだろうか。相変わらず学校の話はしないが、桃から聞く限りではちゃんと通っているようだ。
飲み物を注文して、テーブル席に座っているヒカルの向かいの席に腰をおろした。数週間会っていなかったので、久しぶりという気がする。そう言えば、この店ではじめてヒカルを見かけてから、もうすぐ一年経つ。なんだか感慨深い。最初に会った時とは雰囲気が随分変わった。
言語表現力の低い俺は「雰囲気」とか「オーラ」としか言えないのがもどかしい。ただ改めて彼女を観察し、去年の記憶と比べてみると、外見についても変化があった。髪の色が黒くなっていた。そういえば十字架のピアスもしなくなったな。いつからだっただろう。思い出せない。こういう変化に疎いから俺はダメだ。
「こんばんは」
彼女の方から挨拶してくれた。俺も挨拶を返す。人との縁とか出会いって不思議だ。最初に彼女と会った時、親しくなるなんて到底無理だと思っていたのに。
でもいつだって別れは突然訪れる。この日、俺は隠し玉を用意していたが、それを披露する前に彼女が切り出す。
「ねえレイさん。私、夏休みは塾の夏期講習行くことになったの」
俺はなんとなく会話の行き着く先が予想できた。俺の役目が終わる予感。ガラス越しに外を見ると傘をさしている人がちらほらいる。昼過ぎにはあがっていた雨が、またふり始めたようだ。
「今までの遅れを取り戻したいから、月曜日から土曜日まで毎日。もしかしたら日曜日も行くかも」
「ずいぶんハードだな。急に大丈夫か?」
「分かんない。でもやってみる」
そう言う彼女の表情が眩しかった。俺もまだ若い方だと勝手に思っているが、このキラキラした輝きはきっと十代の特権。そして続きを言い淀んでいる彼女に助け船を出した。
「じゃあ、このカフェでこうして英語を教える必要ももうなくなるな」
「ごめんなさい」
「謝ることなんて何もないよ」
そう謝ることなんて何もない。少し寂しいだけ。
「じゃあ、今日で最後かな」
寂しさを表に出さないようつとめて明るく言った。彼女は何も言わない。
「どうしたの?」
少し間があった。
「レイさん、私レイさんにはお礼言わないと」
「勉強のお礼? いいよ別に。俺も息抜きになってたし」
社交辞令ではなく本当にそうだ。
「それもあるんですけど、それだけじゃなくて……」
ヒカルは真剣な目をしていた。鈍い俺でもさすがに何を言おうとしているか想像できる。うまく言葉にできない彼女に、
「言いにくいことは無理して言わなくていいよ。それに、何となく分かるしね。こういうカフェって高校生が一人で頻繁に来るとこじゃないし」
話しながら、また一つ外見の変化に気がついた。化粧をしなくなったということだ。なぜ、気がつかなかったのだろうか。こちらを見つめる目は潤んでいた。大きくて綺麗な目で、なんだか桃の目に似ていた。