「さて、じゃあ勉強始める前にコレ」
「なんです?」
「プレゼント。昨日誕生日だったでしょ。前言ってた」
「言ったの自分でも忘れてたのに。覚えててくれたんですか? スゴい!」
「うんまあ」
嘘である。以前に桃から誕生日のことを聞いていたのである。ラッピングしたアーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』をプレゼントした。もしかしたらすでに持っているんじゃないかと若干不安だったが、持っていなかったようで、すごく喜んでくれた。
今日で最後だし、誕生日だし、授業はやめてスイーツでも、と思ったけどやめた。せっかくここまでうまくいっているのだ。特別なことはしなくて良い。ただ、最後にどうしても聞きたいことがあった。
「ねえ、突然だけどペット飼ってる?」
「え? ペットですか?」
本当に唐突過ぎたみたいだ。
「えーと、私は飼ってません」
戸惑いながら答えるヒカルに、俺はさらに聞く。
「『私は』ってことは、ご家族は飼っているのかな?」
「うちではないです。近くに住んでいるおじいちゃんが犬飼ってるので、行けば一緒に遊びますけど。なんでですか?」
心臓が高鳴る。一瞬迷ったが、決心して切り出す。
「その犬の名前、当ててみていい?」
「はあ」
話の展開についてこられないようだったが、ここまできたらもう構わない。
「桃太郎?」
大きな目がさらに大きく見開かれる。それで的中したと分かった。当たる予感はあったけれど、それでもやっぱり驚かずにはいられない。
「これもどこかで話しましたっけ? あれ、でも『ペットいる?』って今聞いたってことは、前には話してないですよね?」
「いやあ……」
なんて言おう。でもごまかし方を思いつかなかったので、思ったことをそのまま口にした。
「魔法」