大学業界が直面する諸難題

ここまで四大および短大の状況、ならびに文科省による高等教育政策の変遷について確認してきたが、短大の動きについて改めて時系列順にまとめておこう。

●1993年度:在籍者数ピーク(530,294人)

●1994年度:進学率ピーク(13.2%)

●1995年度:学科数ピーク(1,538学科)

●1996年度:短大数ピーク(598短大)

これを見ると、需要のピークが先行しているのが分かる。つまり、短大の縮小は顧客フローである高校生(およびその保護者)のニーズが先に変化し、短大がそれに対応する形になっている。だが、その対応が後手に回るほど、顧客フローが短大業界を避け続けるようになる。

その結果、短大に蓄積される顧客ストックも目減りし、収益構造の悪化を招いてしまう。そこで、短大の一部は四大に衣替えすることで対応した。この動きが四大増を後押ししたのは言うまでもないだろう。

一方、四大はこれまで確認した図を見る限り、その市場規模が縮小する兆しはないように思われる。だが、短大が増加傾向から一旦頭打ちになってから低下してきた事実を鑑みると、四大も同様の動きを示すことも可能性としては十分考えられる。そこで、これまで確認した四大の状況を「頭打ち」をキーワードに改めて時系列順にまとめると、次のようになる。

●2005年度:在籍者数(2,685,051人)頭打ち始まる

●2010年度:四大数(778大学)および学部数(2,479学部)頭打ち始まる

これを見ると、大学業界全体で顧客ストックの頭打ちが始まって10年以上、顧客ストックの受け皿である大学数や学部数の頭打ちが始まって10年強経過していることになる

※吉川徹は進学率が頭打ちになっている50%強のラインを学歴分断線とよんでいる。そして、この線を境界にして人々の生活パターンが相当異なり、かつそれが定着し始めていることを指摘している。吉川徹『学歴分断社会』ちくま新書、2009年。

その中で、どこかに眠っているであろうチャンスを活かして再拡大するのか、それとも縮小してしまうのか? 

高等教育の大衆化が深化する現状において、大学市場の規模自体が縮小するのはにわかに想像つかないが、各大学はより苛烈な生存競争に身を投じなければならない状況にいることは間違いない。その上、ここまでで確認したこと以外の手段で文科省は大学間競争を実質的に煽っている。