大学業界が直面する諸難題:授業改革
高等教育が大衆化することは、大学業界の拡大を意味するのと同時に、それ以前のエリート段階では想定していなかった学生層が大挙して大学へ入学することも意味する。
これは一面で、学力の乏しい学生が在籍するという問題に直面し、他面で外国人留学生が学ぶ場として、そして、一度大学を退学してしまった人や、実社会で働く社会人や定年退職した人々の学び直しの場としての門戸が開かれてきたということでもある。
そうなると、エリート段階で実践されていた手法とは本質的に異なる手法による教授実践が必要になる。学生層が多様化するのが大衆化の特徴の1つであり、潜在的学生層が大学を評価・選択する目も早晩肥えてくるだろうから、それに対応した教授手法を用意しておかなければ大学間競争で生存できないからである。
こうした大学に教授手法などの変革を迫る動きを、専門家は「教授パラダイムから学習パラダイムへの転換」※1や「『学習』から『学修』への転換」※2などと表現している。この方向を決定づけたのが2012年8月の中央教育審議会(以下、中教審と略記)の答申※3である。専門家内では質的転換答申とよばれるこの答申において、次のような一節がある。
※1 溝上慎一『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂、2014年、p.9。
※2 有本章『大学教育再生とは何か 大学教授職の日米比較』玉川大学出版部、2016年、p.304。なお、彼は学修(study)と学習(learning)を次のように概念的に区別している。前者は、講義・演習等を通じて学生がするべき予習・復習を念頭においた活動なのに対して、後者は、講義・演習等とは無関係に学生が独自に行う活動である。ただし、本書は両者の区分をあえて行わず、特に断りのない限り学習で統一する。
※3 中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」文部科学省、2012年8月。
主体的に考える力を持った人材を育てるには
生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。
すなわち個々の学生の認知的、倫理的、社会的能力を引き出し、それを鍛えるディスカッションやディベートといった双方向の講義、演習、実験、実習や実技等を中心とした授業への転換によって、学生の主体的な学修を促す質の高い学士課程教育を進めることが求められる。学生は主体的な学修の体験を重ねてこそ、生涯学び続ける力を習得できるのである。(中教審、p.9)