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和子さん、突然歩けなくなる

「入院して早々の手術は大変でしたね。少しは落ち着かれましたか?」

「いやあ、もう、こんな病気だなんて思ってもいなかったもんで、びっくりしている間に時間だけが過ぎてしまいました。いまだに、何がどうなっているのか、戸惑っている状態です。ところで先生、うちの和子の病状は、やはりかなり悪いんでしょうか」

「実は、そのことをご主人にお話ししておきたいと思ったんです。奥様がいらしたので、先ほどは言わなかったことがあるんです。奥様は肺ガンである可能性が極めて高いというのが私をはじめ、森先生や黒木先生とも一致した見解です。今回、その肺ガンが脊髄に転移しているので、これは遠隔転移があるということになります。肺ガンに限らず、ガンの良し悪しの分類は、良いほうから悪いほうへ、ステージ1からステージ4まであります。奥様の肺ガンは、残念ながらステージ4に達しています」

「ということは、助からんということになるんですか?」

「必ずしもそういうことではないのですが、そうですね、言い方を変えますと、手術ができない状態で、かつ化学療法や放射線療法の効果もあまり期待できない状態ということになります」

「そうですか、やはり助からんということですね。私は、肺ガンが脊髄に飛んでいると聞いたときから、これは厳しい状態なんだろうなと思っていました。で、先生は今後どのようになさるおつもりですか?」

「私の考えとしては放射線療法か、化学療法は積極的に選択して、治療を行っていきたいと考えております。ただ、放射線療法にはリスクがあります。つまり、副作用による痛みが出現する可能性が高いのです。そこで、ひとまずはカルボプラチンとパクリタキセルという薬を使って、化学療法を実施します。薬の効き具合によっては、イレッサという薬を用いた化学療法の検討もさせていただきます。この方法が最もリスクが小さくて効果が期待できるのではないかと考えています」

ワンポイント解説

カルボプラチン

カルボプラチンは、白金錯化合物と呼ばれる抗ガン剤の一種である。白金錯化合物は、貴金属である白金の原子を有機酸などが取り囲むような構造をしていて、ガン患者に静脈注射すると、血液中の白金がガン細胞に取り込まれ、ガン細胞のDNA合成を阻害することで抗ガン作用を発揮すると考えられている。

パクリタキセル

パクリタキセルは静注によって体内に入ると、細胞の骨格を形成する微小管という細胞内組織に結合する。これによって、細胞が分裂するときにできる紡錘糸が形成されるのを阻害することによって抗ガン作用を発揮する。