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責任放棄に怒りは頂点へ...しかしタイムリミットは迫る
そのうち、詳細設計グループの人たちや製造部隊の人たちも出勤してきて、当初予定していた白い結晶ではなく、鉄錆びの赤茶色の結晶が出たことは、すぐに全員に知れ渡りました。
試運転のときは、毎朝、8時から30分程度、関係者全員が参加する全体会議を開いていました。これは、前日までの試運転状況やその日の予定を全員が確認する目的で開かれていたものです。そして、その日も、私が対策を思いつかないまま、8時から全体会議が始まったのです。
そのとき、集まったメンバーの様子を見て、私は目を疑いました。さすがに、運転を行う製造部隊の人たちは不安な表情をうかべていましたが、このような誰もが予想しなかった緊急事態が発生したというのに、詳細設計グループの連中は、なんとニヤニヤと薄笑いを浮かべているではありませんか!
そして、詳細設計グループの連中は口々に私にこう言ったのです。
「さあ、永嶋さん。どうするんですか?」
「どうするのか、早く対策を決めてもらわないと困ります」
「何でも指示してください。対策を決めてくれたら、我々は言われたことは何でもしますよ。早く対策を決めてくれませんか?」
一体、何という人たちでしょうか! 昨日まで、散々私のやることに文句をつけていたのに、緊急事態が発生すると、一転して、傍観者に立場を変えてしまったのです。つまり、傍観者となることで、緊急事態から逃げ出して、この事態の責任から逃れようというわけです。
本来、試運転は詳細設計グループの責任範疇です。私は、あくまでオブザーバーにすぎません。また、装置の材質に炭素鋼を用いることを最終決定したのは、晶析装置をメーカーに発注した彼らなのです。
しかるに、このような緊急事態が生じると、自分たちの責任を完全に放棄し、基本設計の担当である私に全責任を押しつけて、自分たちは傍観者に転じるとは無責任にもほどがあります。
私の怒りは頂点に達しました。あまりの怒りに、そこにあった椅子を彼らに投げつけたいという衝動を抑えるのに苦労したほどです。しかし、そのような怒りを彼らにぶつけているときではありません。
まずは、この緊急事態を打開するために、取るべき対応をすぐに決定し、それを実行しなければなりません。前に書きましたように、試運転は時間との闘いなのです。
そこで、私は彼ら、詳細設計グループのメンバーにこう言ったのです。
「よし、わかった。俺が全部決めてやる。その代わり、お前ら、俺が決めたことに一切文句を言うなよ。それから、俺がすべてを決める代わりに、お前ら、これから10分間、一切何もしゃべるな。10分のあいだに俺がすべてを決めてやる」
10分と言ったのは勢いで言ってしまったのではありません。これは、実際にその場の状況や雰囲気を体験しないと説明が難しいのですが、私は、10分のあいだに次の対応を決めないと、全員のなかに不安と混乱が増長して、収拾がつかなくなると判断したのです。短時間で意思決定をしなければならないほどに事態は切迫していたのです。