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起こった事実
これは、私が工場ではなく、本社の化学プラントの設計部隊に所属していたときの話です。
【事例4】と重複しますが、もう一度、基本設計と詳細設計をご説明させてください。基本設計というのは、プラントの基本的な設計を行い、主要な設備の内容や、工期、予算などを決めるものです。この基本設計の結果をもとに、会社がその案件を実施するか否かの稟議を行い、実施が決まれば詳細設計に移行します。
詳細設計というのは、基本設計を基に、より詳細に設備の仕様を決めて、メーカーに機器を発注し、工事までを実施するものです。この話が起こった当時、私のいた会社の本社では、基本設計と詳細設計のグループが分かれており、私は基本設計のグループに所属していました。
【事例4】でも記載しましたように、このような組織構成のため、必然的に詳細設計グループは、基本設計グループの決めた工期や予算で仕事を進めることになります。いわば、他人が決めた工期、予算で仕事をするわけですから、どうしても詳細設計グループは、基本設計グループと反目することが多かったのです。
さて、そのとき、私は特殊な晶析装置を導入する案件を担当していました。
晶析というのは、例えば食塩水を冷却すると、飽和温度以下になったら食塩の結晶が溶液中に出てきますが、その現象を利用して、ある物質を溶解した液を冷却することによってその物質を析出させて純度の高い固体として取り出す操作のことを言います。
私が担当した晶析装置は冷却して結晶を析出させるだけではなく、ある特殊な方法で析出する結晶固体の純度をさらに上げるというもので、私のいた会社が日本で二番目に導入する新しい技術を用いたものでした。私は基本設計が担当でしたが、このような特殊な装置でしたので、案件が詳細設計に移行しても、全体のオブザーバーとして工事と試運転に参加していました。
その装置は、マイナス10℃程度の温度で冷却を行うことでよかったため、ステンレス鋼ではなく、安価な、いわゆる「鉄」と呼ばれる炭素鋼で製作していました。
炭素鋼の場合、マイナス10℃程度の温度での使用は問題ありません。しかし、ステンレス鋼は大気中で錆びることはありませんが、炭素鋼は大気中で錆びますので、メーカーでの製作過程で充分に錆び落としをしてから、装置を工場の現場に据え付けたのでした。
そして、工事がすべて完了し、いよいよ実際の液を用いた試運転が始まったのです。