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一長一短…2つの危機回避策
二つ目の方法は次のようなものです。
まず、液を空タンクに移送する仮設配管を2日かけてつくります。そして、いまある液を約1km離れた空タンクに移送します。ここまでは、一つ目の方法と同様です。その後、装置に液を投入し、もう一度4日かけて装置を冷却し、析出する結晶を見てみるというものです。
この方法の問題は、もう一度4日かけて冷却しても、析出した結晶に鉄錆びが含まれていないという保証はまったくないということです。もし鉄錆びが含まれていたならば、その時点で一つ目の方法の錆び落としに取り掛かるしかありません。
すなわち、二つ目の方法で、もう一度4日かけて冷却し、出た結晶にまだ鉄錆びが含まれていたならば、一つ目の方法に切り替えなければなりませんので、一つ目の方法よりも4日分、商業運転の開始が遅れることになります。これは、二つ目の方法が失敗した場合には、一つ目の方法よりも4日分、会社が莫大な損害を出すということに他なりません。
次に、私は商業運転開始の日程がどうなるかを考えてみました。すでに決められている商業運転の開始日時を厳守するには、二つ目の方法で、もう一度4日かけて冷却し、出た結晶に鉄錆びが含まれていないケースしかありません。
すなわち、一つ目の方法ならば、すでに決められている商業運転の開始日時を厳守することは不可能で、会社に大きな損害を与えてしまうことになります。一方、二つ目の方法で、再度冷却して鉄錆びが出なかったら、商業運転の開始日時をなんとか厳守することができます。しかし、二つ目の方法でも、また鉄錆びが出たら、一つ目の方法よりもさらに4日分商業運転の開始が遅れますので、その分、一つ目の方法よりも会社が大きな損害をこうむることになります。
つまり、どちらの方法も一長一短があり、簡単にどちらを採用すべきかを決めることができませんでした。
最後に、私は「装置の製作過程で錆び落としを、あれだけ充分に行ったのに、晶析操作を実施したら、なぜあんなに大量の鉄錆びが出てきたのだろうか?」ということを考えてみました。
その結果、次のような仮説を思いつきました。
装置の製作過程で行った錆び落としは、紙やすりで装置内面全体をこすって鉄錆びを取り除き、そのあとウエス(タオルなどの布)でふき取るという方法でした。ウエスでのふき取りは、こすっても、もうウエスに鉄錆びが付着しない(付着すると、ウエスに色がつくのでわかります)というところまで、徹底して行いました。
そのあとは、水分をほぼゼロにした窒素を装置に封入し、そのまま試運転に入っています。すなわち、装置の製作過程で行った錆び落とし以降に、空気が入り込んで、再度錆びるということは考えられません。