どちらの男がいい人か?
翌朝の瓦版には、すごいことが載っていた。
虎谷屋に女盗賊が入った。二千両盗んだ、と書かれてあったのだ。二千両なんて……?
あの若者の泥棒に、一泡吹かせてやらなくてはね。
料理茶屋の向こう側にある、地蔵さんが少し笑ったようだった。
麻衣はその晩はぐっすり眠った。
とにかく疲れて仕方がなかった。なぜあの男は、鍵を落したのだろうか? それにしても千両箱を持って行ったのに、二千両を持って行ったと書かれている。
この事件も不思議だ。女盗賊? 私じゃないか。あの男のことは、何も書かれていない。私だけのことしか。瓦版屋と結託して、書いたのだろうか?
麻衣はその日、町民の姿をして瓦版屋に行った。
瓦版屋は、今出かけるところだったそうだ。
「何でぃ?」
三十年輩の男は言った。
「あら、今出かけるの。ちょうど良かったわ」
麻衣は柔らかく笑って、その男に言った。
「昨日の瓦版のお話、どこから仕入れたの?」
「そんなこと、お前に話せるか」
男は羽織をさっと着て、出て行きそうになった。
「待って!」
麻衣は、きっと男を見た。
「何だい、忙しいんだよ」
「手間は取らせないわよ」
麻衣は男の手に一両を渡した。
「さ、言ってちょうだい、あのお話は、どこから仕入れたの?」
「……」
男は考えていたようだが、手にした一両を見つめ、思い切ったように言った。
「誰にも言っちゃいけませんぜ。あのお話は、泥棒をした男から訊いたんだ」
物言いが、さっきより優しくなったような気がした。
「泥棒? その男はどこに住んでいるんだい」
「さ、それはあっしも知りやせん」
「知っているんだろ? 言いな!」
「……」
「言わないなら……」
「あ、言います……男は、この先の清住町の裏長屋に住んでいます、あっしが言ったなどと言わないでくださいね」
麻衣は黙ったまま、踵を返した。