薬がどのようにして作用するか

薬が人の体の中でどのような効果を現すかを薬理作用と呼びます。また効果を現す過程を作用機序と呼びます。薬は病気の原因になっている体のある部分に作用して病気の症状を改善しますが、薬が作用する部分は作用部位とか受容体という言葉で表現されます。薬理学とは薬理作用や作用機序などの学問であり、薬の本丸ともいえる学問なので、ここを理解すると薬の効果も含め副作用の理解にもつながります。

ここからは、薬の本来の仕事である薬理作用や作用機序に関する記事を紹介します。

  • 慢性閉塞性肺疾患に使われる吸入薬

たばこをよく吸う人に多い病気で、慢性閉塞性肺疾患(通称COPD)という呼吸器の病気があります。新型コロナウイルス感染で重症化しやすい基礎疾患の一つです。

肺は体内で産生される老廃物の二酸化炭素と生命維持に不可欠な体外にある酸素を交換する大切な働きを持っています。酸素は鼻から気管支を通り肺に運ばれ、さらに肺の内部にある肺胞に到達します。静脈血に溶け込んで運ばれてきた二酸化炭素は肺胞で解放されて、代わりに酸素が血液中の赤血球の中にあるヘモグロビンタンパク質に結合して動脈の血液によって全身に運ばれていきます。

たばこの煙の成分はこの肺胞を徐々に傷つけてしまうので酸素と二酸化炭素の交換が次第に行われなくなり、全身に十分な酸素が送られずさまざまな症状が出てきます。その症状に至る前に、警告を示すかのように息苦しくなり咳症状が出てきます。これがCOPDの患者さんの悩みになります。

たばこの煙が気管支に炎症を引き起こし空気の通り道である気管支を狭めるため、咳が出てしまうわけです。いったん傷ついた肺胞は元に戻せないので、COPDの治療にはせき症状を改善するための気管支拡張作用を持った吸入薬が利用されます。

気管支には気管支を拡張する交感神経由来の神経伝達物質ノルアドレナリン(ただしβ2への作用は弱い)やアドレナリンに反応を示すβ2受容体と、気管支を収縮する副交感神経由来の神経伝達物質アセチルコリンに反応するM3受容体が存在します。普通はそれらの作用が調和して呼吸を調整しています。

もともと気管支では副交感神経系が優位になっており収縮する傾向が強くなっていますから、COPDでは気管支が炎症によって収縮傾向が強くなり、空気の通り道がより狭められてすぐにせき込みやすくなっています。ここで、学習会をしていたときの質問を紹介しましょう。

その1: COPDでは気管支拡張作用を持つ吸入薬が第一選択で利用されますが、同じ気管支拡張薬であるβ2 受容体刺激薬よりなぜ抗コリン薬が多く使われるのでしょうか?

その2: COPDのせき発作で利用される短時間性気管支拡張薬では、抗コリン吸入薬の気管支拡張作用が強く、β2 刺激吸入薬の作用発現時間が早いのはなぜでしょうか?