8)体重と血中濃度の関係とは
体重別に薬用量が明確に設定されている薬は数が限られ、多くの薬は「成人1回1錠を1日○回服用(薬によっては、症状に応じて増減する)」という表現になっています。
成人といっても小柄な人から大柄な人までさまざまですから、1回1錠で本当に大柄な人でも効果があるのか、小柄な人では副作用が出やすくならないかと単純に思ってしまうのは私だけではないのではと思います。
今回は私自身を納得させるための自己暗示的考察です。
①仮想の薬「アダック(adac)錠Ⓡ750mg」の紹介
(1)アダック錠の効能または効果
顔は思い出せるが名前が思い出せない症候群の諸症状の緩和。
(2)アダック錠の用法および用量
1回750mgを1日2回、12時間ごとに投与する。
(3)アダック錠の薬物動態パラメーター
半減期は10時間、最高血中濃度到達時間は1時間、吸収速度定数(Ka)は3.9/h、分布容積は0.64L/kg、薬物の血中からの消失は1次速度式に従う。
(4)アダック錠の有効血中濃度
12~42mg/L(=μg/mL)
② アダック錠を体重60kgの人に用法用量通り投与したときの血中濃度推移
フリー血中濃度シミュレーションソフトQflexを利用したところ、図1のグラフができました。
有効血中濃度の範囲を網掛けで示します。また、横軸の時間は日単位、縦軸の血中濃度Cpはmg/Lで表しています。
定常状態は半減期の4~5倍(4.5倍とします)で達しますので、アダック錠の定常状態到達時間は45時間後のほぼ2日後になります。
体重60kgの人ではアダック錠の有効血中濃度の範囲内で血中濃度が推移しており、めでたしめでたしという結果になりました(もっとも、そうなるようにパラメーターを調整したのですが)。
③ 体重が60kgではない人の場合はどうなるのでしょうか?
上記の6回目投与の直前の血中濃度を定常状態の最低血中濃度Cmin、6回目投与直後の最高値を定常状態の最高血中濃度Cmaxとして、体重30~100kgの人の血中濃度推移をQflexシミュレーションソフトで測定した結果が図2になります。
同じ投与量であれば体重の重い人ほど血中濃度が下がり効果が薄れていく傾向になり、体重が軽い人ほど血中濃度が上がり副作用の出る可能性が高くなることが分かります。まあ、当たり前の話だといえばそうなのですが、体重の軽い人ほど血中濃度の振れ幅が大きいことも分かります。
このようになる原因は、多くの薬の血中濃度(Cp)の理論式が次式で表現されることにあります。
この式の詳細は他の薬物動態学関連書籍に譲りますが、この式で体重に関連する部分はVd(分布容積)になります。単位は通常L/kgになるのでVdは体重が重いほど大きな値をとります。言い換えれば血中濃度Cpと体重kgは反比例の関係になります。極論的にCp=1/体重とすると図3の反比例グラフになり、図2のグラフと同様、軽い体重になるほど変化が大になります。
④まとめ
あくまでも仮想薬剤アダック錠が体重60kgの人でちょうどよい有効血中濃度域に入っているときの話になりますが、日本人の男女を合わせた体重分布で40~80kgの範囲に多くの人(約70%近く)がいるだろうと考え、かつこの体重分布が正規分布するなら平均値±標準偏差で表現すると60kg±20kgとなります。アダック錠の場合、40~80kgの範囲であれば両サイドに若干のはずれはあるものの有効血中濃度内にほぼほぼ収まっており、多くの人がアダック錠を有効かつ安全に利用できると見なせます。一方で、Cmaxの高い低体重の人やCminの低い高体重の人が、それぞれ15%前後存在していることは見逃せません。以上を一般論としてまとめますと、
(1)薬の常用量は、有効血中濃度幅もしくは安全域の平均値と日本人の体重の平均値が合致した付近に結果的に設定されており、多くの人にとって利用価値のある量になっている。
→と考えると、多くの人に同じ薬用量が設定されている理由が理解できるという強引な結論です。
(2)有効血中濃度幅や安全域の狭い薬は許容できる体重幅も狭くなるため、体重別や表面積別の投与量設定が必要になる。
(3)個人として激太りや激やせの人には、血中濃度に変化が出てきて注意が必要である。特に激やせの場合には血中濃度の上昇率が大きいので、薬の副作用に注意する必要がある。