麻雀教室
お知らせにあった初心者向けという麻雀教室に行った。私のグループは、ベテランらしい六十代の男性金田さん、若い頃やったけれど忘れたという女性山下さん、一昨年この講習に来たけれど、もう忘れたという八十歳近い女性花田さんである。花田さん以外はみんな同年代で、全くの初心者は私だけらしい。ボケ防止にと思ったけれど、ついていけるかしらと不安になる。
始め方から習う。初めに手前で牌を十七個ずつ二列に並べて、それを真ん中寄りに一列二段に出し直す。指にぐっと力を入れて一七個を持ち上げる。山下さんは十七個の牌を一度に持つことができる。私も何とかできるようになった。うれしい。花田さんは持とうとするが崩れてしまう。
「最初から真ん中に出して並べたら」
と、山下さんが心配して声をかけた。でも花田さんはみんなと同じにやろうとする。大丈夫、崩れても並べ直すまで待っているから。私も崩れることあるし。ここは練習の場所だもの。
次に牌の取り方である。女性陣のやることがまどろっこしくて、見ていられない金田さん。えーと、さいころの目が合計九だから、なんて私たちが数えているうちに、さっさとみんなに牌を配ってしまう。
「練習ですから一人ずつ取って下さい」
と、先生に注意されても、意に介さない。
会社員だった頃、部下の都合なんて全く考えなかったのだろうなと、内心呆れた。
リーチとツモとロンを習う。自分が何を捨てるのか決められないのに、他人の捨てる牌なんて見ちゃいられない。欲しい牌はいくら待っても回ってこない。どうしてリーチなんて言えるのだろうと思った。それなのに、山下さんがリーチをかけた。
「ワアッ、すごい!」
思わず言ってしまった。
でも彼女は捨て牌を横にするのを忘れ、金田さんに直された。
「私、忙しいの。帰るわ」
山下さんが立ち上がった。先生も、私たちもびっくりして慌てた。せっかくリーチしたのに、もったいないと思うけれど。
代わりにアシスタント君が入った。嵐の相葉雅紀に似たかわいい男の子で、おしゃべりが楽しい。横浜国大四年、麻雀が大好きで今日はアルバイトだそうだ。金田さんもおとなしくなった。
「ねえ、何捨てたらいい?」
隣の相葉君にそっと聞いてみた。
「僕ならこれかな」
体を傾げて私の牌を覗きこんで言った。
「ふーん、これね」
一番ずうずうしい人が私である。