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人身御供が来た!「ねえ、君」のゲーム
起こった事実
私は、化学プラントの設計・工事の仕事に従事していたため、仕事柄、本社と工場や研究所を交互に転勤するような状況でした。
この話は、私が工場の設備部隊に勤務しており、ある化学製品を生産するプラントの能力アップを検討していたときの出来事です。
化学プラントの運転は大きく分けて、バッチ運転と連続運転に分かれます。バッチ運転というのは、例えば、原料を反応装置に入れて、化学反応を起こさせ、生成物を抜き出すという操作を繰り返すもので、仮りに、その操作を1日に12回繰り返せば、1日12バッチの運転と呼びます。
一方、連続運転というのは、反応装置に連続して原料を投入し、反応させて、連続して生成物を取り出すというものです。そのときに私が担当していたプラントは、全体は連続運転だったのですが、化学反応の反応装置だけはバッチ運転がなされていました。
当時、そのプラントはできたばかりで、化学反応を1日に12バッチ行っていました。すなわち、1バッチを2時間で運転していたのです。
さて、私は反応装置だけでなく、プラント全体の運転データを1年間かけて、徹底的に調べてみました。夜間のデータをとるために、何度も徹夜をしました。
すると驚くことに、現在の設備のままで、1日12バッチから、1日16バッチまでプラントの生産能力を上げることができるという結論に至ったのです。
当然、このことを運転課に伝えたのですが、運転課の人たちは失敗を恐れて、誰も私の話に耳を貸そうとしませんでした。
そんな、ある日のことです。いつものように出勤した私のところに、まだ始業時間前なのに、そのプラントの運転課の課長から電話が掛かってきました。
その電話は「いまから大急ぎで、こちらに来てくれ」というものでした。私は一体何が起こったのかと驚いて、その課に飛んでいきました。
当時、その運転課は製造班と技術班に分かれており、課長の下に、製造班長と技術班長の二人の幹部がいました。私がその課に着くと、課長の机のところに、製造班長と技術班長が集まっており、3人が深刻な顔をして無言で私の到着を待っていました。
そして、私が課長の席に行くと、それまで黙っていた製造班長がなぜか
「人身御供が来た! 人身御供が来た!」
と叫んだのです。何のことか、さっぱりわからず、私は課長に
「一体どうしたのですか?」
と聞きました。そのときの課長の話は信じられない内容でした。課長はこう言ったのです。
「実は生産計画に失敗して、このままだと今期の生産量が未達になってしまうんだ。ただ、明日から生産量を1日14バッチに上げれば生産計画を達成できる。永嶋、お前は1日16バッチまで能力を上げることができると言っているが、我々には自信がない。そこでだ、永嶋。我々は明日から1日14バッチの運転に入りたいのだが、もし何か起こったら、お前が全責任を取ってくれ」