小説 『信長様と猿』 【第5回】 ヤマダ ハジメ 内通者をあえて泳がせる――書簡を何通か並べた信長は、笑いながら藤吉郎に問うた。「猿、この書状、どれが本物かわかるか?…」 儂は、草履取りの雑用係から日頃の忠義と実績が認められ武士の足軽に取り立てられた後、桶狭間の合戦に於いては、足軽組頭として出陣していたな。その頃の信長様との会話を想い出すとこんな秘話があったわ。「殿、桶狭間の戦ですが、拙者も組頭として参加しておりました。勝てる相手とは思えないほど兵の差がありもうした。確か今川勢1万2000に対し織田勢はわずか3000あまり。どうして勝てたのか、未だにわかりません。…
小説 『愛され未亡人の、湯けむり恋物語』 【番外編3 第1回】 月川 みのり 夫が毎朝、早朝にフラッと家を出て、朝食前に何事もなかった顔で戻ってくる…後をつけると、小さな寺の墓地へ… 【前回記事を読む】2人で露天風呂の最中、夫が突然「言いたいことがある」と姿勢を正して向き直ってきた。「俺が倒れた時、実は…」結婚して、3年目の秋を迎えた。よし子は51歳になった。藤乃屋の女将として、毎日は穏やかに過ぎていく。山の木々が色づきはじめ、宿は今日も、静かに賑わっていた。(あの崖っぷちの日から、私は、ずいぶん遠くまで来た。そして、ずいぶん、幸せになった)夫の雅彦は、相変わらず口数は多くな…