小説 『おとこと女』 【新連載】 澤村 涼一 「最近何か面白い本、読みました?」…迷った結果“三島由紀夫”と答えたが、語りすぎた…数秒の沈黙の後、彼女は唐突に…… 「あっ、一ノ瀬(いちのせ)さん、最近何か面白い本、読まれました?」一ノ瀬が食堂で夕食前と夕食後の配薬の準備に取り掛かっていると、同じく食堂で夕食に向けた配茶の準備をしていた川名香澄(かわなかすみ)が声を掛けてきた。一ノ瀬はちょうど配薬の開始において既に食堂のそれぞれの席で待機している入居者の内、どの入居者を皮切りに配薬をスタートするか、ある程度開始の順番の目星を付けたところで、それ以外のそれぞれ…
小説 『第四世代』 【最終回】 伯岡 美沙 その時「あっ!」と小さな悲鳴が…見ると、彼の表情が苦痛に歪んでいた。養父の酷すぎる仕打ちに、さすがに我慢の限界がきた。 【前回記事を読む】養父が山盛りにした灰皿を交換するのが僕たちの役割だ。絨毯に落ちた灰は、床に這って指で拾い集める。掃除機はうるさいから…だから今、こうして『引き取ってくれたご主人様だから』と、北沢になにも言わないでいるのは、そうとう自分自身を押し殺し、我慢しているのだ。自分の感情に反し、藍に同情しながらも、そうしなければならない。飛鳥の、心の負担は日に日に大きくなった。かといって、一番かわいそう…