小説 『差出人は知れず』 【第8回】 黒瀬 裕貴 免許返納を拒んだ老人がブレーキを踏み間違え、車は妻に突っ込んでいった…事故後、夫は「加害者家族を妻と同じ目に遭わせたい」 【前回記事を読む】「母さん。死んじゃ駄目だ。俺、まだなんにも親孝行出来てないんだよ。」中学生の男の子は嗚咽しながらも話しかけることをやめない「俺たちが何をしたっていうんだろうな」亡霊のように佇む東は両の拳を強く握る。爪が皮膚を食い破り、血が滴るのではないかと思うほど強く。「こんな……こんな目に遭わなければならないことを涼子がしたっていうのか。生きていれば無意識に人を傷つけることだってあるだろう。…
小説 『トオル』 【第6回】 井原 淑子 ベッドとベッドの距離が近く、全員裸。——全てが「医療者」目線であり、患者の「意思」や「心地よさ」は無視されていた 【前回の記事を読む】術式の説明を終えた医師は、患者の両親が退室した途端「旦那の方が説得しやすかった。理論でいけた。」…本当は医療ミスがあった。再手術を終えて二日目、透は予定通り六人部屋に移った。そこは大きい窓のある、明るく広い部屋であった。まさ子はようやく、落ち着いて看病ができると胸を撫で下ろした。(これが普通よ。あのリカバリー室が異常だった)リカバリー室では、生死の境を彷徨っている人が多かった…