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人生の最期に後悔したくない

母の「死のことを習ってからにしてね」という言葉はその後何回となく言われることになった。

その結果、私もいつの間にか「死のことを習ってから」という気持ちがどこかに染み付いてしまった。

だが、いまだに本当のことはわかっていないし、そのときに後悔しないためにはどうしたらいいのかも本当は皆目わからないのだが、ただ一つ、私が到達できたのは

「自分の死のときに人生を後悔したくない。だから、そのための生き方を目指そう」

と心に決めたことだ。

それでも努力もしないのに才能のある人やチャンスに恵まれた人には嫉妬を感じたり、努力の時間より楽しい時間を過ごす方を選んだり、チームワークが超苦手だったりと、山のような失敗や後悔の連続の人生なのだが、少なくとも

「死のときに後悔しないように、いまを生きよう」

という覚悟だけはできた。

だから、母にしてみたら、まったくセンスも才能もないのに芸事を始めたがる私を牽制する意味もあって言ったかもしれない言葉が、私にわずかながらの”哲学”をさせ続けることに繋がったのである。

大学の『哲学入門』のクラスで、ハイデッガーの「人は死に向かって歩いている動物である」という言葉に出会ったときには仰天した。

「お母さん、ハイデッガーと同じこと言っている!」

ラテン語に『メメント・モリ』(死を想え、とか、汝、死を覚悟せよ、の意味)という有名な警句がある。

芸術作品のモティーフとしてもよく使われているが、この警句も「死のことを思い、いまを生きよ」ということを示しているのではないだろうか。