つつつーと廊下を走る。向こうが蔵だった。だが、麻衣は蔵の前を素通りしていく。
「ここにはないんだよ」
と言い、一つの部屋の前で止まった。じっとしゃがんで聞き耳を立てる。どうも、この部屋にあるようだ。部屋には明かりがともっていた。麻衣はじっと動かない。明かりは消えた。それでも麻衣はじっとしている。新之助も動かない。麻衣を見習って、じっとしゃがんでいる。
やっと麻衣は動き出した。立ち上がって、するすると障子を開ける。新之助も後ろに続く。中に入る。部屋をぐるっと見渡し、麻衣は戸棚に進む。戸棚を開ける。探す。新之助も別の戸棚を探す。中には、金縁清座衛門が布団の中で高いびきをかいている。その傍で、二人はあっちに行ったり、こっちに来たりと棚を探すので忙しい。
その時、麻衣が柱の隅で紐を見つける。引っ張ると、奥行きのある小さな穴が開いた。穴の中には、小判がぎっしり詰まっていた。麻衣は、新之助に目くばせすると、その小判を胸に収めた。新之助も小判を胸に収める。さてもう用はすんだ。引き上げるとしよう。
麻衣は外に出る。新之助も廊下に出ようとした時、布団の端に出ていた何かを踏んだ。ぎっと云う音がする。途端に金縁清座衛門が跳ね起きた。
「何やつ!」
置きざまに、枕元に置いている刀の剣を抜く。新之助はその時廊下に出ていた。二人ともそのまま逃げようとした。
「誰か出合え!」
金縁清座衛門が叫ぶ。家来たちが雪崩のように、走ってくる。二人は、右と左に離れて懐剣で立ち合う。家来たちは、もともと警護のために、別室にいたのであろう。皆袴を穿いて、身だしなみに抜かりはない。人数は約六、七人ほどだ。
「これなら気安いわ」とばかりに麻衣は、大胆に懐剣を「えい!」とばかりに突き出す。家来たちはじりじりと麻衣と新之助を取り巻く。
「ふん!」
麻衣はそういうと、周りを取り囲んだ家来たちを見回し、腰からぱっとつぶてを投げた。一つが家来の額に当たった。
「あっ、何だ!」
家来は額を抑える。また麻衣は、腰からつぶてを取ると、別の方向に投げた。別の家来も「あっ」と言い、顔をそむける。
「何だ!」
すると、にんまり笑った麻衣は、ぱっと飛び上がると向こう側の塀を乗り越えて、すとんと落ちた。新之助は刀が使える。それで一人の家来から刀をもぎ取ると、たちまち新之助が形勢を直した。素早く刀を振り上げて、新之助は飛び上がれないので、植込みの石の上に乗って、すとんと向こう側に落ちた。
すぐさま走る。二人は別方向に走る。家来たちはもうどうしようもなかった。二人を見失ってしまったのだ。