そんなやりとりをしているうちに、わたしたちは2-Aの教室にたどりついていた。

扉の前に立ったとたん、会話にまぎれておさまりかけていた緊張と不安が、胸を突きあげるようにして襲ってきた。どきどきと脈打つ心臓に「平気、平気」と声をかける。

そもそも、先輩が今この部屋にいるのかどうかもわからない。けれどこういうとき、なぜだかわたしには、根拠のない確信のようなものがあった。先輩はいる。

その確信は、今回も当たった。先輩は、前方扉に近い席に、ぽつんと座っていた。

だれかに呼び出してもらう必要もない。わたしは、扉から少しだけ身を乗り出し、「先輩」と声をかけた。その声に気づいた先輩が、顔をあげる。

「ポンタ……マオ……」

先輩は、席を立ち、一回だけまわりを見わたしたあと、廊下に出てきた。

「先輩、お久しぶりです」

わたしとマオ、二人して頭をさげる。

「あんたたち、なにしにきたの。早く自分の教室にもどりなさい」

「そんな……わたしたち―」

先輩は、「わかってるよ」と言って、わたしの言葉をさえぎった。

「あの話を聞きつけてきたんでしょ?」

「……はい」

「じゃあ、わたしから言うよ。あんたたちの耳に入ってることは、ぜんぶ本当」

「ぜんぶって……」

「だから、なにからなにまでよ」

「わたし、そんなこと信じません!」

わたしは、先輩に詰め寄りながら言った。

「信じないもなにも……本人が言ってるんだから、これ以上たしかなことなんてないじゃない」

それでもまだ食いさがろうとするわたしの腕を、マオがつかんだ。

「ポンちゃん、もうやめようよ」

「だけど……」

「マオの言うことが正解だよ」と先輩が言った。

「教室をのぞいたとき、わかったでしょ? 今、わたしに近づこうとする生徒なんて、ひとりもいない」

ついさっき見た、ほかの生徒たちから離れてぽつんと席に着いていた先輩の姿が、脳裏をかすめていく。

「さあ、早く行って。こんなところにいつまでもいると、わたしと仲間だと思われちゃうよ」

「かまいません」

「わたしがかまうの。ポンタやマオは、こんな騒ぎにかかわって、薄ぎたないカビに感染しちゃいけないんだよ」

薄ぎたないカビだなんて……そんな……。