六月二十六日 火曜日
少女と動揺とポニーテール 1
天気は、今日も雨が降ったりやんだりのまだら模様。
どうせなら、もっときっぱりしてよ―見わたすかぎり、くすんだ雲に覆われた空に向かって、そんな文句のひとつも言ってみたくなる。
「おっはよう」
精いっぱいの笑顔をつくりながら教室に入ると、「あ、ポンちゃん! おはよう」と近寄ってくる生徒がいた。小山内真音―同じ中学から美咲杜に進学したクラスメイトの一人。お笑い好きで、1-Cきってのムードメーカーだ。
ちなみに、最近ではもう、中学からの知りあいかどうかに関係なく、ほとんどのクラスメイトが、わたしのことを「ポンちゃん」もしくは「ポンタ」という愛称で呼ぶ。
「あ、マオっち、おはおは〜」
なごやかに返事をすると、マオはいきなりわたしの腕をとり、教室の隅に引っ張っていった。
「ちょっと、痛いよ、マオ」
「もう! なんであんたは、そんなにのんきなの。人の表情くらい読みなさいよ」
「ご、ごめん」
わけがわからないまま、とりあえず謝ってしまう。
たしかに、わたしを見るマオの目は、いつになく真剣だった。このあと、急に笑って「なんちゃって〜」とか言ってくれそうな雰囲気は、残念ながらない。
「ま、いいや。要はあんた、まだ聞いてないんだね」
「聞いてないって……なんのこと?」
「サキ先輩が、大変なんだよ」
「先輩が? ね、サキ先輩になにかあったの?」
マオが、あきれたようにわたしを見る。
「ポンちゃん、金曜の事件のこと、ほんとになにも聞いてない?」
「事件!?」
ニュースやドラマでしか聞いたことのない言葉。心が、突然ざわざわと騒いだ。