ライブを通じて1つ上のみっちゃんと仲良くなった。幼く見える彼女であったが、芯は強く、いつも私の味方でいてくれた。この頃1番悩みを分かち合っていたのは恐らく彼女であろう。高校も一緒だったので、学校帰りはよく一緒にライブハウスに行った。
ライブの後は必ず打ち上げがあった。近くの居酒屋で開催され、ライブに出た人も、見に行っただけの人も交流できる。
そこで初めて熱燗というものを口にする。缶チューハイやワインはよく飲んでいたが、升に入れられ、あふれそうになっている熱燗。一口飲むと全身にしみわたっていくのがわかる。特に真冬に飲む熱燗は最高だった。
お酒に耐性がない高校生。当然泥酔し、気がつけば公園、ということも少なくなかった。
そしてその頃、数ヶ月ほどつき合った人がいた。彼は周囲からギターの神様と言われながらも、どことなく寂しい雰囲気の持ち主で、つかみどころのない人だった。
彼が所属するバンドはハイレベルだったし、歌もよかったので、ファンも多かった。確かCDも出していたように思う。ライブ中、ファンが見ている中、彼は自分がつけていた腕時計を私に投げてくれた。私への誕生日プレゼントだった。
世間にやさぐれていた私の心を一瞬で満たしてくれた。これ以上の幸せはないね、と2人で朝まで語り合った。
しかし幸せは長くは続かなかった。他に帰る場所もなく、彼に依存し始めた私が重くなったのか、彼は少しずつ私と距離を取り始め、ついには消えてしまった。
私はライブハウス通いを辞めた。タバコの本数も増え、嫌なことがあるたびに酒におぼれた。
数年後、SNSを通して彼から連絡があった。久しぶり!と。
何となく嫌な気がして会わなかったが、彼は麻薬の売人になったことを後から風の噂で知った。彼もまた複雑な家庭環境で育ち、感受性が豊かな人だった。
とても「寂しいひと」だった。