第二章 コーヒー農園
第三話 幼なじみ
ミランダ農園のとなりにも、広いコーヒー農園があった。
その農園主フリアンは一人暮らしで、ロレンソとは子供のときからの友達だった。フリアンの父が、ミランダ農園で働いていて、ロレンソの父からコーヒー栽培を教えてもらったのだ。
ロレンソはちょくちょく、フリアンの家へ一杯(いっぱい)やりに行った。夕食後、家の前庭に置いた椅子(いす)に座ってウイスキーを飲みながら、楽しそうに話をする姿が見られた。
「村の若いやつが麻薬の運(はこ)び屋(や)になったらしいよ」
フリアンが言った。
「なぜそれが分かったんだ?」
「急に、高級車を乗り回すようになったからさ。そいつの父親はまじめに働いたが、家族を食べさせるのもやっとだったんだ。車なんか持ってなかったよ」
「そうか。その父親は、むすこを運び屋にはしたくなかっただろうな」
とロレンソが言った。
「誰だって金がほしいさ。若いやつはなおさらだ。麻薬は金になる。金になる麻薬を手に入れるために、麻薬ギャングが殺し合う。今のこの国の現状(げんじょう)だよ」
「金のためにそんなに簡単に人を殺せるものなのか? 私には理解できないよ」
ロレンソはそう言って、グラスを空にした。
「ふつうの金のためなら、人間は人を殺したりはしないもんだ。だけど、孫の代まで遊んで暮らせるほどの金のためだったら、私だって君を裏切るかもしれないよ」
フリアンが、いたずらっぽい目をして言った。
「君はそんな人じゃないよ、フリアン。私が一番よく知っている」
二人はしばらく黙ったままだった。ロレンソが口を開いた。
「運び屋になるのは、まだましな方だ。この国には武器を持つ武装(ぶそう)グループがいくつもある。どれも、麻薬をめぐる争いから生まれたものだ。ここからもっと山奥(やまおく)の村では、武装グループに入って新しい服や銃(じゅう)をもらうことが少年たちのあこがれになっているそうだ。そうして人を殺すことを教わるんだ。でも、自分が殺されるかもしれないということは決して教えてもらえない」
「麻薬のある所に暴力ありだ。あの若いやつもそのうち殺されるか、刑務所(けいむしょ)に入ることになるだろうよ」
フリアンが悲しそうに言った。ロレンソは、一人の男をやめさせたことを話した。
「そうか。それはよかったな。悪い芽は早めに摘(つ)むにかぎる。カビにやられて黄色くなったコーヒーの葉と同じだ」
フリアンはそう言った。この平和なコーヒー産地にも、麻薬の黒い影(かげ)が近づいているように感じて、二人は暗い気持ちになった。