雨上りし赤萌え山の谷沿ひの 櫟の芽吹きはすがしかりけり
うすうすと日かげかぎろひ遠山の 襞のかげりも見えずなりたり
月照れる窓に垂れたるくるみの葉 ベッドの上にさやかに映る
※本記事は、2021年5月刊行の書籍『短歌集 蒼龍の如く』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。
短歌集 蒼龍の如く【第18回】
生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。
満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。
厳しいあの時代を生き抜いた著者が
混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。
投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり
伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし
擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く
新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る
息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム
(本文より)
雨上りし赤萌え山の谷沿ひの 櫟の芽吹きはすがしかりけり
うすうすと日かげかぎろひ遠山の 襞のかげりも見えずなりたり
月照れる窓に垂れたるくるみの葉 ベッドの上にさやかに映る