資格試験には覚悟が必要・地獄の藻掻き
心臓に爆弾を持つ身には、資格試験受験は厳しい。
社労士のテキストを購入。テキスト購入にも迷い、厚くて、説明文の多いテキストを選ぶ。テキストを二、三ページ開き、読み込む努力をする。
こんな努力をして、この本の最終ページまで理解することは大変だ。数日間、読み込むが、今後、理解のスピードが日に日に落ちていることに不安を感じた。
土、日は、朝から夜まで時間の許す限り、テキストと格闘した。ある日曜日、格闘に疲れ、リビングで休んでいると、嘗てのゴルフ仲間から携帯に連絡があった。
シングルでプレイする彼は、慌てた声で、
「大変だ。今連絡があったが、お前がお世話になった役員が倒れた。ゴルフのティーショットを打ち終わると、そこに蹲ったままで……
すぐに救急車で運ばれて処置したが、すでに遅かったらしい。『脳内出血』のため手遅れで、手術したが手の施しようがなかったらしい。
詳しいことは知らないが、ティーショットのとき血圧が二百以上に一瞬上昇することを知っていたか。ゴルフが怖くなったよ。
お前、他人事じゃないぞ。たまたま、天の神様が助けただけで、お前が先にあの世に行っていたかも知れない。
無理するな。定年前にあの世に行ったら、みんなに笑われるぞ。年甲斐もなく、無理なトライは血圧が上がるぞ」
「本当か。あの元気な人が。優秀な人からあの世に逝く。お前は良いな。何があってもくたばらんよ。今じゃあ、ゴルフしないから俺は、関係ないよ」
「バカ言うな。俺だってちゃんと病気もちだ。軽い糖尿病で酒は控えるように言われている。糖尿病と分かると、カミさんが何と言ったと思う? 『あんたいいわね。病気に負けずに、絶対にこのまま定年になっても、引き続き会社で働いて頂戴ね』だって。
睨みつけるような顔で言われたよ。そのあとが、嫌味で『社に残って頑張らなくちゃあ、好きなゴルフが出来なくなるわよ』だって」
そんな仲間の連絡が終わると、「彼も、継続雇用するのか」と定年が迫ることに不安を感じた。
毎日、テキストとの格闘は、無理するとじわじわと体を虫食んでいるのが実感できる。食べるために生きているような私が、時々、食欲がないのだ。役員の急死を聞いてから特に食事中も元気なく、妻に食べるものを指図されて食べるありさまで、そんな状態を見て妻は、不安気に、
「一日に、水を一リットル以上飲まないと、死んじゃうと先生に言われていること忘れていないでしょうね。水をいっぱい飲まないと血が濃くなって血管が詰まって死んじゃうのよ。定年前に死んじゃうよ。会社に手術するから休むって言ってよ。早く……」