無いない尽くしからのスタート
社労士は、労働社会保険諸法令に基づく各種手続きを、経営者に代わって行う代行業務を主として給与計算を行いながら、管理をしている。労務管理の在り方次第で、経営を安定させたり、利益を追求したりすることができることは経営者なら誰でも認識しているにもかかわらず、労務管理の専門家である社会保険労務士はなかなかそこに手を付けないのである。
そこには2つの原因があると思う。1つは労働組合と会社または従業員個人との労働紛争に巻き込まれる恐れがあるからであろう。もう1つは、会社の経営数字が読めない社労士が多いということであろう。
社労士は、取り分け人に関することを扱うが、それだけを熟知していればよいというわけではない。経営の資源たる「人」に関するある程度の知識と実践は必要である。このことに対して、全く知識が無いとなると致命的である。何故なら、貸借対照表や損益計算書などを見て、顧問先の会社がどの状況の経営状態なのかという判断が必要だからである。
例えば、「従業員に賞与を支払いたいけれど、どのくらい支払えばいいのか分からない」との問い合わせがあったとする。この場合、当然、現在の経営状況やキャッシュフロー状況を確認して、支払い可能な賞与原資を導き出し、その中で、各従業員個人の評価を加味してトータル原資はこの程度であればという助言となる。
また、「従業員から、会社に対して賃上げをしてほしいと要求されているが、賃上げをしてしまうと赤字になる」との問い合わせがあったとする。借入れを行っても資金源を確保すべきではという根拠も何もない回答は言語道断である。
専門家である社労士は、顧問契約を結んでいる以上、回答には根拠が必要なのである。それとも、書類作成代行業務のみ受けているため、相談業務などの分野の仕事はしていないので、分かりませんと答えるだろうか。そのような回答をすると、社長は「顧問委託する社労士を別の人に切り替えるから、もういいよ」といった話に発展しかねない。
まず、労働紛争についてだが、経営者と従業員の間に発生する時間外勤務等の割増賃金の未払い事案が最も多いであろう。人と人の争いは常に醜悪なものがある。その中で客観的事実の認否確認や法律に適合した判断を下し、解決に導かなければならないため、相当のストレスがのしかかる。
そのため、社労士の大半が労務管理の在り方に手を出すことを避けるのである。また、紛争に発展した際は弁護士に依頼すればよいと思っている社労士も多いだろう。しかし、多くの経営者はこの部分に対するサポートや助言を欲しているのである。