助成金・賃金台帳の二重帳簿を平気で行う経営者
【事件概要】
ある時、税理士の紹介で株式会社Eから雇用開発助成金を利用したいので、相談にのってほしいという依頼があった。
株式会社Eの労働関係や経営関係の書類(給与計算、労働保険の申告、雇用保険手続、社会保険の算定基礎届の保険料算定の書類、決算書、試算表、税務申告書、建設業の経営事項審査申請書など)は専務が行っていた。従業員を30人雇用し、就業規則や退職金規定なども整備されており、指名競争入札により公共工事なども請け負い、信頼度は高いと思われる会社であった。
雇用開発助成金は、設備投資を行い一定人数の雇用を確保した場合に、設備投資額に対して一定額の割合で補助しようというものであった。
株式会社Eとは、個別契約で助成金の申請手続きを行うことにし、契約書(契約書に記載されている瑕疵ある事実が判明したときは、着手金を返還し、双方はいつでも契約解除できるという文言を含む)を交わした。
助成金は、まず着手金を受け取り、手続き完了時に成果報酬として獲得金額の10%をいただくとしており、企業の受け取る助成金額が高くなればなるほど、この比率は下がった。この助成金は雇用創出の意味合いが色濃く、設備投資と同時に何人以上の雇用が必要とされていた。当時は、雇用数を確認するために、雇用保険の被保険者数で確認していた。
さらに、社会保険の健康保険の被保険者で確認するため、算定基礎届に人数及びその届出後の資格取得届の合計数で確認した。雇用保険では、短期間の被保険者もカウントされるため、社会保険の被保険者数と一致することは、無かった。
不一致を確認することで、正規社員数と短時間社員数の確認をしていた。従業員に実際に支払われている賃金を給与台帳で確認し、設備導入後、増えた設備人員の賃金支払いが、実際に発生しているか確認した上で、支給申請となる運びであった。
ようやく設備が導入され、求人に応じて採用が決定し、従業員の就業が始まった。賃金支払いが発生したら、支給申請というところまで漕ぎつけることができた矢先、私の事務所の事務員が「賃金台帳から保険料控除されている金額に相違がある」と報告してきた。
そして、「算定基礎届による保険料徴収は正確にされているが、そもそも4月から6月の賃金と算定基礎届に記載されている金額が違う」と続けて述べた。私も実際に確認したが、事務員の指摘通りであり、すぐに株式会社Eを訪問し、専務に説明を求めた。すると、「それは、その通りでやってほしい」と告げられた。
私は、賃金台帳と算定基礎届が相違している理由について、再度説明を求めた。その結果、賃金台帳が2つ存在していることが明らかとなった。賃金台帳が2つあるということは、それに基づく会計帳簿も当然あると推定しなければならない。
一体この会社はこれまで何をしてきたのかと不安を抱くと同時に、本当に設備投資したのだろうかという不信感を感じた。
このような会社の助成金を申請して、虚偽だった場合、不正受給の共同正犯として詐欺行為と取られかねないと思い、すぐに顧問弁護士に相談した。顧問弁護士は、関わらない方が得策であると教示してくれた。幸いにも、最後の申請を残すタイミングで二重帳簿が発覚したため、契約の解除を即決した。
契約の時に、着手金を返還し、契約書に記載されている瑕疵ある事実が判明したときは、双方はいつでも契約解除できるとしていたため、その条文に則り、契約解除通知書を特定記録郵便で送った。この時、実費弁償に充てることで、着手金の返還義務は無かったが、敢えて返還し、この案件は収束した。