労災隠しを行う経営者

【事件概要】

A土建株式会社は、地方自治体から土木工事を請け負い、その工事を施工するにあたり、工事の一部をB組に下請業者として施工させた。

ある日、B組が採用していたC労働者が右足の指を骨折し、全治1か月の労災事故が発生したという一報が株式会社Dの労務担当者から入った。

私の事務所と株式会社Dとは顧問契約の関係があったが、A土建株式会社は同族関係の会社にすぎず、顧問契約を結んでいるわけではなかった。

しかし、株式会社Dの労務担当者が、双方の業務を担当していたため、私に一報が入ったようだった。そのため、親会社である株式会社Dの相談業務の一環として、対応することにした。

今回の労災事故は、

「自治体から請け負った工事の元請であるA土建株式会社の下請を行っていたB組のC労働者が、A土建株式会社の倉庫で、型枠製造の作業(資材を持ち上げ)をしているときに、手を滑らせて、資材が足に落下し、指先を打撲した」

とのことであった。

ところが、翌日になり、足先が腫れて、痛みが我慢できなくなり、病院で受診すると、骨折していたことが判明した。

労災申請を行うにあたり、株式会社Dの労務担当者が、労災申請(5号様式)死傷病報告書の書き方などが分からないため下書きをしてほしいとの要請があり、それに応じた。

その後、3か月くらい経過した頃、株式会社Dの労務担当者から連絡があり、上記労災について、監督署から事情聴取されているとの連絡がきた。何事かと思ったが、事情を聴くと、

「B組とC労働者との間で労働紛争が起きており、原因は、上記労災事故のときにB組のC労働者に対する対応が悪かったようであり、それに不満を抱いたC労働者が労働基準監督署に駆け込んだ」

というものだった。

労働基準監督署は、C労働者の聞き取りをする中で、倉庫で怪我などしていないと言い出したため、労災申請に記載されている事故発生場所が相違していると判明し、調査に入ったのだった。

労災の虚偽申請である、労災隠しの可能性があると判断したのであろう。

労働基準監督署は、改めて現場検証や元請会社A土建株式会社、下請B組の当事者C労働者、書類を提出した株式会社Dの労務担当者を事情聴取していった。

株式会社Dの労務担当者の証言の中で、私の事務所も関係していることから、私と相談を受けた私の事務所の担当職員は労働基準監督署に呼び出され、事情聴取を受けた。

帰宅途中に、同行職員と事情聴取の内容を確認する中で、労働災害が発生した場所を、下請けB組が故意に偽証していたことが判明した。