【今回のポイント】
①労災が発生した場合、事故状況報告書の提出要求をすること。(いつ・どこで・誰が・どのように・なぜ事故が発生したのか・第三者はいないのかなど)
②事故状況報告書とともに写真などの添付依頼をすること。
③事故の重傷度によっては、社労士自らが現場に立ち会い現場検証を行うこと。(安全衛生法上の瑕疵や第三者行為により重大事故となった場合、死亡や障害となるような事故の場合など)
④軽微な労災の場合、立ち会わないことが多い。(その会社や担当者が、その職責の中で責任ある業務を遂行していると信頼があるため)
【その後の対応】
本案件において、事故報告書、現場写真、労働者の診断書などが添付されていたが、まさか事故発生現場に相違があるとは誰も気づかず、当事務所は、労働基準監督署の捜査で事情聴取を受けて初めて、偽証箇所を知った。
労働基準監督署は、書類作成に関係していた社労士事務所の対応として瑕疵ある手続きは無かったと判断し、特にお咎めは無かった。
仮に、今回の件で社労士が偽造文書の作成や虚偽記載を行っていたのであれば、共同正犯とし同様に詐欺罪が適応されるだろう。
その後、すべての捜査資料を基にB組は検察庁へ書類送検され、検察庁に判断が委ねられたが、結果として、起訴には至らなかった。
推測であるが、本来であれば虚偽報告により労災を隠し、不正に、労災給付を受けた詐欺行為である。
しかし、労働者は、労災給付により保護されており、労災が軽微であったこと、偽証者が反省などにより、当局の計らいがあったのかもしれない。建設業界では、経営審査事項の中で、労働災害発生頻度が評価の1つとなっている。
また、自治体によっては、労働災害を発生させた業者には、指名停止処分という厳しいペナルティーを科している場合もある。建設業を営む経営者であれば、労働災害による関係役所のペナルティーは十分に承知しているはずであろう。
前述の通り、株式会社DはB組の同族会社であり、規模も大きく事故の事実は了知していたことであろう。社労士事務所の顧問契約は、委託される企業との信頼関係の上で成り立っている。
今回の事件について確証のある話ではないけれど、当事務所は、少なくとも役所からの信用を傷つけられた。この点を顧問先は理解しておらず、当事務所が「良くしてくれた」と思っていたことだろう。
しかし、そこにはもはや信頼関係が存在していないため、信頼関係崩壊を理由に顧問契約を解除することに決めた。