一時帰宅
2月上旬、一時帰宅の許可が出た。
倒れて以来、着の身着のままで入院していたので、必要最小限のもので入院生活を送っていた。もちろん、着替えや必要なものは母やKさんに持って来てもらっていたが、入院生活に慣れた私には、さらに必要なものが出てきた。
許可が出たといっても、一人で一時帰宅することはできない。付き添いが必要で、付き添い人に病院の書類を記入してもらい、病院に戻った時にも、昼食後に飲んだ薬の空袋も提出しなければならないらしい。
一時帰宅の日、朝食を済ませ10時に病院を出発した。買い物リストをつくっていたので、量販店でシャンプーやリンスなどの他、今後の入院生活で必要と思われる品物を購入した。
昼食は、久しぶりにお気に入りのパンを買った。何しろ一時帰宅の時間は限られているので、時間との勝負だ。自宅の玄関のドアの前で私は、自分の家なのに他人様の家のような、少し違和感を覚えながら入った。
軽い昼食を済ませ、自分の部屋に入った。
部屋は、主である私の突然の帰宅に驚いている感じだった。
そして、その空間は私が倒れた時で止まっているかのようだった。
まだ寒い中、私は窓を開け、部屋に新しい空気を入れた。
止まった時間が、動き出した。
夕方16時には、病院に戻らないといけないので、時間を逆算しながら行動した。
リハビリ用にありったけのスポーツウェアをバッグに入れ、化粧道具やヘアアイロンなど、少し自分を取り戻すための物も持っていくことにした。
まだ入院生活は続く。自分が心から欲する物は持っていこう。そう思い、荷造りをした。部屋の窓を閉めて、
『もうしばらく、戻って来られないけれど』
と、部屋に対して心の中でつぶやいた。
あっという間に病院に戻る時間が迫った。病院に着くと、
「お帰りなさい」
とスタッフが声を掛けてくださった。そして、
「薬の空袋ありますか?」
と言われたので、
「あ、あります」
と答え、空袋を渡した。
部屋に戻ると、同室の方々が、
「お帰りなさい」
と言ってくれた。その一言が、緊張していた心をほぐしてくれた。今の私は、自宅より病院の病室の方が安心できる空間なのだ。体と心が、そう言っていた。
持ってきた荷物をクローゼットに入れ、整理した。
お気に入りの物が仲間入りし、少し気持ちは前向きになっていった。