はしがき

月曜日は可燃ゴミを出す日だ。今朝は雨風が強い。雨具を付けてサンダルを履く。

約100メートル先のゴミ収集場所へ両手にずっしりと重いビニール袋を提げて歩き出す。突然、頭が北アルプス水晶岳を出発したときに飛ぶ。ザックは重い。足元は岩だらけ。嵐のなかを下山した。今朝は舗装道路で100メートル先のゴミ収集場所までだ。岩場はない。こんな日常のなかにも山の体験がよみがえる。

昭和が終わって平成が始まったころからだろうか。世の中はIT関係が進化発展し、最近では日常生活を覆い尽くしたように思う。例えば、電車に乗っても、昔のように本を読む人は少なく、耳にイヤホンを差し込んだり、左手の上にスマホを載せて右手で画面を操作している人が多い。家のなかでは幼児でさえ、紅葉のような手でゲーム機を動かす。

天気予報も気象情報と呼び名が替わり、その日の洗濯物の干し方や、傘の必要度、出かける服装まで教えてくれる。

車に乗ればナビが次々に行き先を指示し、車庫入れの注意や、前方に危ないものがあれば自動的にブレーキをかけてくれたりする。

あらゆる方面でどんどん進化発展していくが、一方では「ナビは便利だけど、ナビに頼ってしまって、道が覚えられなくなった」という声も聞く。

大地震や大洪水など、経験したことのない非常事態に直面したとき、山で経験した「けもの道歩き」、「藪こぎ脱出」、「川水飲み」、「トイレ」など、湧き上がるアイデアや勘は力になるはずだ。

「自分で考え、自分で判断し、自分で行動する力」は失いたくない。