『通話』【海堂】×【巡波】

「海堂さん、こんにちは。お元気ですか?」

「あぁ、風邪一つ引かずになんとかやってるよ」

「その後、プロジェクトはいかがですか?」

「気にかけてくれて、ありがとう! 思うようにはいかないけど、楽しみながら進めているよ。こっちに紅弥が来ていたのは知ってる?」

「はい、なんでも生意気な小娘を退治したのだとか……」

「う、う~ん。まぁ、そんなところかな。結果的に鍵盤弾きが仲間に加わったから、感謝以外の言葉が見つからない。あいつって、本当に頼りになるオネエだよな」

「海堂さん、あんまり褒めると、あの人図に乗りますよ? 役に立ったのは事実みたいですが……」

「そうだね、あいつとのつき合いは長いから、そこら辺の塩梅は、上手にしないといけないのはわかってる。そっちも忙しくやってるってあいつから聞いてるよ。原田君にも電話してみようかな? 電話番号、入居時と変わってない?」

「変わってないですよ。そろそろ、ですかね?」

「そうだね、ではでは」

『通話』【海堂】×【紀行】

「も、もしもし原田ですけどっ?」

「こんにちは。四つ葉館の日々輝です。巡波の力になってくれているみたいだね。共同生活にはもう慣れたかい?」

「は、はい。力になってます。慣れました」

「ごめん! 急に電話したりして。硬くなることはないんだよ。僕たちは、ひとつ屋根の下に暮らす同志じゃないか」

「ひとつ、屋根の、下に、暮らす……。ひ、日々輝さんっ! ぼくの志って何でしょうか?」

「うん、難しい質問だね。例えば僕の志は音楽で誰かを幸せにすること。誰かっていうのは、真っ先に自分自身のことかもしれないし、最愛の女性のことかもしれない。音楽に携わる全ての人々っていう拡大解釈もあって然り。仮に、誰も幸せにできなくても、多くの場合、僕はその人生を悔いることはないと思う」

「あっ、安達輝さんの役に立ちたい!……これも志と言えるでしょうか?」

「うん、立派な志だと思うよ。巡波は、多くのファンの憧れの的。原田君だけ見てくれるとは限らないけど、良き理解者であって欲しい」

「良き、理解者……ぼ、ぼくっ、もっと、もっともっとカメラのこと、勉強しますっ!」

「そっか、正式なカメラマンになって、彼女の専属に志願するのもいいかもね。カメラの勉強、励んで下さい。今日はこの辺で」

「日々輝さん、ありがとうございましたっ!」

電力を大量に消耗したスマートフォンが熱病にうなされている。

三者三様の会話を終えた海堂は、四つ葉館が恋しくなった。

しかし、「コピリニクス」は暗礁に乗りあげたばかり。

感傷に浸っている場合ではない。

フィグを中心に据えた「ちっぽけな愛のうた」、ジュリアの奏の下で進行する「告白」再スタートは、この2曲から。より結束が固まれば、『大迷惑』のような大仕事も無理なく着手出来るかもしれない。

演奏・歌唱にはそれぞれ先導者が居るが、「コピリニクス」自体のリーダーは、他でもない日々輝海堂だ。