カラスさんとの対話 その一
「ぎんちゃん、こんにちは! 元気ないね。なんかあったのかな?」
大きな木の枝の上から、ぎんちゃんの様子を見ていたカラスは話しかけました。畑で白菜の収穫をしていたぎんちゃんは、虫に食われて穴ぼこだらけになった白菜をもって、がっくりと肩を落としていたのです。
「カラスさん、こんにちは。よく見ているね。悩んでるのがわかったの?」
「イライラしているよ。怖いくらいの怒りが伝わってくるよ。良くないね」
そう。ぎんちゃんは悩んでいるというより、怒っていたのです。それをカラスは見抜いていました。ぎんちゃんは思い切って打ち明けました。
「聞いてくれるかい。カラスさんに相談したいよ。蝶さんや蛾さんの幼虫やナメクジさんが白菜の中まで入り込み、売り物にならないんだよ。これまでに作った物の半分は食い荒らされてしまった! まったく怒りたくなるよ!」
腰を下ろしたぎんちゃんの、その近くにちょこんと降りてきました。
「ぎんちゃんは、殺虫剤散布をギリギリまで減らしているよね。皆が感謝してるけど、ぎんちゃんには、死活問題かね」
「無農薬野菜が食べたいという人達のために一生懸命作るけど儲からない。自滅だよ。無農薬の有機栽培が商売になるとは思えない」
カラスは小さな頭を傾け、少し考えてから言いました。
「ぎんちゃんは何で悩むの。儲からないから? 芋虫さん、ナメクジさんに怒ってる? 無農薬野菜が食べたい人に怒ってる? 虫も寄りつかない野菜が旨いと思っているの? ぎんちゃんの野菜は、プロの料理人から評価されているんだろ。露地栽培(注釈1)で日光をたっぷり浴びた強い野菜を作ってよ」
複雑な表情のぎんちゃんに、カラスは畳みかけるように言いました。
注釈1 露地栽培:温室や温床などの特別の設備を使わず露天の耕地で作物を栽培する農法。(ブリタニカ国際大百科事典抜粋)