千年の夢
思い出の力
月日はあっという間に流れます。
わたしはチャップの思い出だけで、もう二百年も生きています。思い出には強い力があります。わたしをこの高い場所に運んできた風も強い力をもっていましたが、それとはまったく違う別の強い力です。
それは静かですが、愛や喜びという感情を伴った永続する力です。思いと心の中に絶えず湧き起こり、あふれ出し、決して尽きることのない力です。わたしはこの力であと何百年でも生きて行けると感じているのです。
風や雨や、そして雪の音を聞きながら、花が咲き、枯れ、また芽吹き、つぼみを付けるのを目にしながら、わたしはチャップとの思い出の中に生き続けました。
わたしのこどもたち
そんな、ある春の日のことです。わたしは、遠くにかすかですが、美しい色を見つけました。それは、昔、こどもだったころ、つりがねの小さな家の窓からいつも見ていた懐かしい色です。母と同じでした。
それからは毎年注意して見るようになりました。すると、その色は、春ごとにわたしの眼下で増えてゆくのがわかりました。そして、ついにわたしは、気がつきました。それは、わたしのこどもたちの花の色だったのだと。
わたしが実を結ぶと、さまざまな風がいれかわりたちかわりやってきてわたしのこどもたちを少しずつ、下の世界に運んでゆくのをこれまでずっとわたしは見てきました。その度にこどもたちの美しい羽根の色が日差しの中でキラキラ輝くのを目にしました。
こどもたちは、わたしがそうだったように、旅をしながら、わたしの知らない世界にとんでゆくに違いないと思っていました。わたしが、二度と母の姿を目にすることなく、ひとり、高い山に住み続けてきたように。