千年の夢
迷子
ある日一羽のフクロウが、ふらふらしながら飛んできました。強い風に吹き飛ばされて親を見失ったこどものフクロウでした。ブルブル震えながら弱弱しい声で泣いていました。それは、昔のわたしのようでした。わたしは彼がキツネやワシに見つけられないことを強く願いました。
「こんにちは」
わたしは小さな声でよびかけました。
フクロウの子はびっくりして泣き止みました。どこから声がするのかわからなかったに違いありません。不思議そうに目をきょろきょろさせました。
「こんにちは」
わたしは、もう一度よびかけました。今度は声がどこからでているのか気づいたようでした。振り向いて初めて私を見ました。フクロウの子に見えたのは、やせっぽっちで葉ばかり大きい小さな木だったに違いありません。でも、わたしは、もうここに三年も住んでいました。だから、このフクロウの子を助けてあげられると思いました。もう一度、わたしは自信をこめてよびかけました。
「こんにちは」
それから、わたしは笑顔にせいいっぱいの歓迎の気持ちをこめて、葉っぱの手をさしだしました。
しばらくじっと見て思案しているようでしたが、フクロウの子もやがてにっこりと笑いました。わたしを見てやっとほっとしているのがわかりました。それでも、用心しながら、少しずつ近づいてきました。それからそっとさしのべたわたしの手を握りました。その日からわたしたちはお友達になりました。わたしはその子にキツネたちが絶対近づけない安全な場所をすみかとして教えることができました。それから、お腹をすかせていたその子にやはり少しずつ餌のとりかたを教えました。
チャップ
フクロウの子がとりわけ好きなのは水溜りでした。雨の降った後にそれを見つけるとヨタヨタと小さな脚で歩いてゆき、楽しそうに水浴びしました。水のなかではしゃぎまわる時のチャップチャップという音が、おもしろくて、わたしはそれを彼の名前にしました。
それでも、チャップの一番のお気に入りの場所はなんといってもわたしのそばでした。夏は涼しい日陰になったし、冬は雪や風をさけることができました。キツネや、ワシがうろつく時は、わたしと岩の間でいつもじっと身を隠しました。わたしは、せいいっぱい葉を広げて、彼を隠しました。
プレゼント
わたしが、春になって、はじめて母とよく似た紫色の花を付けたとき、チャップは目を見張って喜びました。「すごいプレゼントだ」と、言いました。
そして、「とても、きれいだよ」と、何度も言いました。わたしを見上げるチャップの顔がこれまで見たことがないような幸福や満足で輝いているのを見て、わたしも幸せでした。
チャップがいたので、わたしはもう少しもさびしくありませんでした。そして、わたしはチャップを喜ばせるために毎年春になると美しい花を咲かせました。