雑賀(さいか)衆

「儂らは、意に沿う者の要望があれば、何時でも出陣できるように、この様な格好を致しておる、そなたの事は、宗易様の使いの者より伺(うかが)って居る、鉄砲を学んで何と致すか」

「これからの戦は、鉄砲が主役となるであろうと思われますので、やがて世に出る時の役に立てたいと存じる」

「そなたは土岐源氏の正統な血流を汲む者と伺って居るが、やがて美濃も尾張の織田のうつけに狙われる事となるであろう、儂は織田信長が大嫌いじゃ、あやつは、この頃堺に出張って来て、金に物を言わせて、鉄砲や、南蛮の珍しいものなど皆独占しておる。あやつはやがて天下を取る積りだろうが、儂はそうはさせん。必ずこの鉄砲でやつを倒して見せる」

「ところで、鉄砲を扱う上で一番肝心な事は何でござろうか」

「それは玉込めじゃ。硝薬を筒に押し込む時、無理な衝撃を与えると暴発する。心を平静に集中して優しく強く押し込むのが肝要じゃ」

そう言って、孫一は実際に硝薬を筒込めし、部屋の障子を開けると火縄に点火して、堀に向かって空砲を放った。「ドーン」と大きな音がして、鉄砲の筒先がわずかに上に跳ね上がった。

「見たであろう、もう一つ大事なことは、的の少し下に照準を合わせることだ。火薬の爆発の衝撃で筒先はわずかに上を向く。この鉄砲はポルトガルから直伝の優れ物じゃ。これをそなたに進呈いたそう。やがて土岐氏再興の時には役に立つであろう。その時は儂も一肌脱がせてもらおう」

孫一はそう言って持参した鉄砲を光秀に差し出した。光秀は有難く押し頂いた。孫一は、