第一章 3人の出会い
「ところで、君らは何か部活動をするつもりがあるのかい。あるんだったら、何部に入ろうと思うんだい」
と茂津が2人に尋ねた。
「僕は部活動が嫌いというか、気に食わん奴らとも、集団で行動するのは性に合わんから、どこにも入るつもりはない。人物が小さい奴だと言われてもかまへん。中学でも何部にも入らなかった。集団とか群れをなして行動するようなことが、元々嫌いなんや」
勉が言うと、
「俺は何かやろうと思てんけど、これまでの教師たちの様子を見ていたら、ろくでもない奴が多いやろ。世界史の越智先生みたいな先生やったらええけど、どんな奴が部の顧問というか監督になるかもしれんから、どこにも入らんことにした」
宗が応じた。
「茂津君はどうなんや?」
と尋ねる宗に、
「まあ、2人の思いをプラスしたもんだな」
と応えた茂津は、すぐに真顔になって2人に話しかけた。
「それはそうとさ、これからはお互いに名前を呼ぶときには、〝君〟付けで呼ぶのをやめないか。〝君〟付けはよそよそしいし、言われた方は、何だか見下されたように感じるときがあるんだよ。僕だけかもしれないがね。お互いに、丁寧に言うつもりなのかもしれないけど、相手を見下しているように思えてならないんだよ。
僕に劣等感があるのかもしれないけどさ。それにキザっぽいところが気にくわないんだ。大体のところ、世間では、会社でも官庁でも〝君〟付け呼ばわりは、上司が部下に対してするものと相場が決まってるだろ。中学時代にも〝君〟付けで呼ぶ奴がいたが、大抵は気位の高い鼻持ちならねえ嫌な野郎だったよ。とにかく、僕は良い感じがしないんだよ。どうだい、〝君〟付けで呼ぶのはやめないか」
「全くの同感や、そうしょうや。呼び捨ての方がすっきりするで」
と応じた勉に、宗も
「そのとおりや」
と同意した。勉は、久しぶりに気の合う奴と出会ったように思ったのだ。
そうこうしているうちに、5月の中旬を迎え、中間テストの時期がやってきた。ある日、下校時に茂津が
「そろそろ中間試験の勉強してるのかい?」
と聞いた。勉は
「いいや」
と答えたが、宗は
「ぼちぼちや」
と答えると、茂津は言った。
「関西で、商売人の用語で〝ぼちぼち〟は、相当儲かっていることを言うらしいから、お前相当勉強しているな」
「ほんまにぼちぼちや」
勉は茂津に聞いた。
「お前はどうなんや」
「お前と一緒だよ」
と茂津は勉を見透かしたように言った。勉は、
「当たっているだけにムカつくなあ」
と微笑みながら言った。
「お前と同じで勉強嫌いだが、ここの教師連中を見ていると、余計に勉強する気にならねえんだよ。怠け心の言い訳みたいだけどさ」