誕生日
ヨンスは早朝から何回かに分けて3階に持ち込んだ部品の組み立てを始め、2基のミサイルを広場のひな壇に向けてセットした。
建国記念日に録音した万歳の三唱を、ミサイルの発射装置が感知するか、念のため2基とも、何回も確かめる。
最終の確認を終えたヨンスが店に施錠して、民衆の中に溶け込んでいこうとしたとき、市場のボスが車のキーを手渡して、「ぼろの車だけどみんなが乗れるし、燃料は満タンだ」と、目に力を込めて言った。
すべてを察したヨンスは、ボスに預けてある靴屋の一輪車のパイプの中に多額のドルがあることを告げた。
無言の力強い抱擁のあと、ヨンスは人ごみに紛れて、家族の待つ家へ、指定された車のある場所へと急ぐ。ボスはひな壇がよく観察できる場所へと移動する。何か組織の動きがあるのだろうか。
定刻には人波で広場が埋めつくされた。祖国讃歌の歌とともに、目まぐるしくも華美なマスゲームが始まる。花火が打ち上げられ宴が最高潮に達すると、指導者を讃え、一身を呈して服従することを、次々に人を替えて演説をする。
そして最後に、大音響で万歳三唱を指令した。数万の群衆が、あたり一面に響かんばかりの三唱へと移る。だが、最初の万歳が終わると、轟音とともに2基のミサイルがひな壇に突き進み、一瞬のうちに壇上は瓦礫と化した。
目の前の出来事を理解できず、かたずを呑んで立ちすくんでいた群衆が我に返ると、たちまち混乱と悲鳴の渦となって、家族の待つ家に逃げる者、隊へ帰って指令を待とうとする軍人やらで、右往左往の大混乱になった。
指導者付きの近衛隊はこの惨状に手の施しようがなく、それでも生存者を探す一団と、犯人逮捕に向かう一団の任務に就く指令が出された。
このミサイルはまずガスの力で発射され、その直後にロケット噴射がされるので、発射場所の特定が瞬時には難しく、しかも祭日のため、門戸を閉ざした商店街が冷たく迎えるのみであった。
遠方からうかがっていた市場のボスは、出来事にしばし茫然としていたが、ようやく我に返るとケイタイを手にとり、マニュアルがあるかのように次から次へと指令を出し始めた。