ミンの存在

「私が気づいたきっかけは、貴方が靴を作りながら歌ったアメリカのカントリーソングです。ヨハン様は優しいのですが、がちがちの軍人エリートなので、アメリカの類は一切忌み嫌っていました。

市場の公安が貴方を『捜索中のアメリカ人』と言ったのを思い出して、もしや記憶喪失は隠れ蓑ではないか──そう思うと失礼ながら、貴方の顔の傷は崖から落ちた打ち身ではないように見えてきたのです。

運命の女神の恵みか悪魔の悪戯か、これから先どのようになるのか、奥様やお子様たちが貴方たち兄弟のようにならないかと思うと、眠れなくなってしまったのです」

もう隠しようがなかった。

「推察のとおりです。しかし自分に双子の兄弟がいるとは知りませんでした。この家族に離れがたい気持ちがあった理由もわかりました。でもご心配のように、今日まで肉親たちに大変な罪を犯してしまいました。

私が目的を放棄して姿を消さない限り、家族にも貴方にも大変な迷惑がかかります。すぐおいとまいたしますから、どうぞ元気で家族を見守ってください。お願いいたします」

細い手を伸ばしてすがりつく老人を心を込めて抱きしめると、外へ出ようとした。そこにはミンの様子を見ようと片手にミルクを持ったジェインが、溢れる涙を拭いもせず震えながら立っていた。出口を自分の体で塞ふさぎながら、

「話を聞いてしまいました。今の話は、私ももしやと思っていました。でも主人が行方不明で、一緒に生活してくれた貴方が出ていくなら、私たちには生きてゆく価値が見当たりません。私も子供たちも、貴方に身も心も預けてしまったのです。

何か大きな目的があるのなら、一緒に戦います。生き甲斐もなく刹那的に日々を過ごすより、ずっと価値があります。ミンさん、このような私と子供たちを許してください」

ジェインの必死の形相を見てミンは、

「貴女にその覚悟があるならば、私に何の反対がありましょう。老骨に鞭を打って、私も頑張ります。ヨンスさん、貴方がいなくなるのが、一番の悩みであったのです」

熱く見つめあいながら、手を取り合った。