最後のミッション
残るは三人組だ。戸主は娘の名前で「金融業」とある。自宅から出たごみ袋を調べると、金融業界誌やその新聞が多い。外出は定番の週3回のレストランの食事のみだ。
店のテーブルに盗聴器をセットしたいが、毎回席を変えるのが不思議である。それが何かに用心深くなっている証拠ではなかろうかと思える。
日用品は食事帰りに娘が揃え、他の二人は寄り道しようともせずに帰宅する。
たまに、金融業の会社名のついた車が訪れることがあるくらいだ。まさに取りつく島のない時が流れた。ただし、だいぶ時間がかかった本国からの連絡によると、アメリカ人だという娘の住所も経歴も、全く別人のものであった。不在の時に家屋を調べると、監視カメラやセキュリティグッズ完備の用心深さである。
市の職員に扮して訪れると、インターホン越しに拒否される。四方から映したビデオを見たヨンスとヘンリクは、最後の手段としてラジコンのヘリを飛ばして、暖炉用の煙突から盗聴器を落としてみることにした。窓からの採光もよく、気密性も高いらしいので、この時期、暖房も必要ないはずである。
コンセントの裏に仕掛けるものでないから電源に寿命があるが、成功させるよりほか方法を思いつかない。家を空けた日に煙突の中に吊り下げて、灰があることを予想して同色のクッションに包んだ盗聴器を落とした。受信機の作動を確かめて、帰宅するのを待つ。
夕暮れに白髪の老人を車から降ろして、母が開けたドアを入っていく。母と老人は別室に行き、娘が暖炉の部屋に来た。ため息をつきながらパソコンのキーを叩く音がする。画面を見つめているのか無言であったが、娘がケイタイで話し出した。
「今日の出来具合はどうだ。銘柄の○番は……買い注文が多ければ売り急ぐな。○番は……手持ちで賄えるか。○番は……こちらへの入金が滞っているから、先方を少しじらしてみろ。押し目はどうだ。一進一退が一番良い状態だから、相方としっかり連絡を取って、手落ちがないように。○番の下値が○ドル以下だと解約すると伝えろ。○の注文数は……」
と次々指図を続ける。それが終わると別の番号にかけて、「注文銘柄が決定しましたので、明日おいで願えませんか」と話をして、ふーっと息をついた。
「どうだ、順調か?」
母の声がした。意外と太い声だ。