最後のミッション

その男が今、殺人兵器の売人になっていたのだ。

戦争や紛争には必ずこの男の影がつきまとい、最近のアフリカ内紛では敵・味方双方に策略をめぐらせて戦いの種をつくり、双方の首領に金品で媚びながら権力欲を煽(あお)り、裏で仲間が情報を交換しながら戦いを企てる。

踊らされた先住民たちは、血に飢えたトラに変貌した。優位に立つために多くの武器を欲しがると、小出しに渡しながら値段を吊り上げてゆく。

武器商人はその地域に豊富に産出するダイヤモンド、金、レアメタルをからめ獲(と)るのが目的で、犠牲になる人たちの命は、眼中にもないのだ。

ヨンスは春になってもまだ肌寒い上海空港に降り立って、アメリカ大使館の武官に迎えられた。

「貴方と一緒に仕事ができる名誉をうれしく思います。中国は初めてと聞きましたので、ウォーミングアップに上海の周りをご案内いたします」

ヘンリクという武官は、敏捷さをオブラートで隠したような穏やかさで先導する。街中どこもかしこも人の波で、大声と車の喧騒に渦巻いていた。

河のほとりの石造りの古い建造物はイギリス統治下の遺物で重々しく、そこを折れたところの高級品店の建ち並ぶ街路はあでやかに彩られ、独特の賑やかさだ。名だたる庭園の山水と古い建物の調和はみごとで、いにしえの栄華がうかがえる。

杭州や蘇州の水郷はいわば中国のベニスで、大小の湖や運河を行き交う小舟と河べりの家並み、半月のような橋に風情を感じる。

夕刻、太く赤い柱の並ぶレストランの丸テーブルに座ると、中華料理がたっぷりと、次々に運ばれてくる。

蒸した上海ガニ、淡水魚の唐揚げに甘酢のあんかけ、川エビと野菜の醤油炒め、ふかひれスープ、小籠包の熱い肉汁、そしてそれらを従えて喉に誘い込む熟成された老酒。使命の緊張がふっと途切れそうになる。

しかし、緑茶で食事を終えると、二人の顔つきが厳しくなる。ボルトの消息は内通者が探ったもので、情報提供者は

「噂だけでそれ以上はわからないし、命にかかわるから知りたくもない」

と言う。1500万人以上の市民からどうやって探し出せばよいのか。手段から考えなくてはならない。