上陸

夜のとばりがおりて、薄墨を塗ったような暗さでも圧倒的に迫って続く崖の下には海が広がり、ちりちり打ち寄せあう氷片が埋めつくしている。

今ここに生活している生き物は、海流に乗ってくる魚を狙う猛禽類しかいない。やがて、黒い小波がむっくり盛り上がり、潜水服で身を固めた複数の人影があたりを警戒しながら、防水布でくるんだ荷物を浜に揚げる。

ロップ（ロープ）の付いた小型器具を取り出して、崖を仰ぎ見て角度を素早く調整し、鈍い発射音を残してロップを打ち上げる。その先には黒い口を開けた小さな洞窟があって、天井に命中。

2本目のロップは、先端についた鉄の爪が洞窟の3メートル上の崖上の粉雪の中に潜って、岩を捕まえた。一人が足裏に金具を付けて、ピンと張った2本のロップを掴つかみ、両腕でロップをたぐりよせながら洞窟までのしのしと上っていく。

次に、下にいた黒い影がいくつかの荷物をモーター音とともに洞窟に届けると、役目を終えて、また海水の中に戻っていった。

洞窟の男は、防水布の中から数本の柱を引き出して洞窟の入口とその奥に立てかけ、それに取りつけてあるフックに網をつるし、入口に向かって泡状のものを噴射させた。

泡は瞬時に固まって、外気との遮断壁となる。そして、柱を立てかけた洞窟の奥に向かい、同様に泡状のものを噴射させて、部屋をつくりあげてしまった。

予定作業を終えたのか、男は寝袋を広げ始める。

6か月前

国連ビルをはるかに望むビルの一室。

一見して重い責務の地位にありそうな、しかしいわくありげな男が五人、一人の男を待っていた。年の頃は30代だろうか。

ブロンドの髪とブルーの目をした浅黒く目鼻立ちが際立っている顔に、ダークスーツの下に柔らかく盛り上がった筋肉を容易に想像できる体躯の男が現れ、閲兵式のように直立すると、とたんに空気が張りつめ、男たちはその男の品定めを始める。

しばらくして、中の一人が重々しく口を開いた。