帰還
ヨンスが帰宅してすぐに、遠方から微かに爆発音と硝煙が上がるのを確認すると、ヨンスとミンは運転台に、他はトラックの後ろに身をひそめて、洞窟に向けて出発した。
途中で車を置いて、徒歩に変える。
粉雪が積もる崖上にたどり着いた。ごつごつした崖の岩陰に人間がいるなぞ、想像もできない地形だ。
3メートル下の洞窟に下りるために打ち込まれたロップを頼りに、持参の別のロップでミンの体を縛り、ミンが弟のジュワンを背に崖を下り、ヨンスが命綱を下ろしてゆく。
洞窟内到着の連絡でジェインが、ヨンミが、ジョワンが同様に下ろされ、下でミンが受け止めた。そして最後に、ヨンスが下りた。
皆、明かりをつけてかじかんだ手足を温めて一息つきながら、洞窟内とは思えない装備に驚嘆している。
通信済みの救助隊到着を待って次の段取りを説明し、不安を取り除く。
到着の信号が入ると、先程の順番で下に下りる。今度は上陸時にヨンスが昇ってきたのと逆に、吊り輪に掴まって、一歩一歩足を踏みしめつつ、浜へと下りていく。下にはゴムボートが待っていた。
幸い風もなく海は凪いでいたので、乗り移るとすぐに薄暮の中を沖へと滑り出した。
潜水艦が黒々と巨体を浮かべて待っていた。ハッチの蓋を閉める頃、セットしてあった爆発物で、洞窟の中身は粉微塵となった。
潜水して軽快なエンジン音の響く船内で、船員がヨンスを派手に歓迎するのを見て、ジェインら家族も緊張が取れて、陽気なアメリカ人と打ち解けている。家族に与えられた船室でくつろぐと、子供たちは遠足のときのように高揚した気分になった。温かい美味な食事を終えると、今日の緊張疲れに睡魔がすり寄る。
その頃混乱のさなかにあった国内に、次々と極秘の指令が発せられていた。指名の代表者たちが指定の場所に集合し、新政府づくりの初対面の面々の確認をした。まず、混乱の収拾を口実に攻め込もうとする外国の軍隊を阻止しなければならない。
そして、マニュアルに沿って一斉にマスメディアを使い、暫定政府の設立、5か月後の総選挙、国連平和監視団の早期入国、食糧・医療の援助などの要請を矢継ぎ早に発信すると同時に、いずれの国からの軍事介入も強く拒否する声明を発表した。
海外に亡命していた各方面専門家による仮想国家の法律制定・行政執行などのマニュアルは、暫定代表者の国家策定の下地になり、その人たちの帰国を促すきっかけにもなった。
軍人たちは意外と冷静で、新政府を歓迎し、協力的であって、銃口は上層幹部の暴走阻止に向けられている。
市場のボスは内閣の一員になっていた。