「待て待て。お前はまったく暴れヤギみたいにおてんばだなあ。南村の連中も行くはずだ。あいつら荷物をどっさり積んで行くらしいから、まだ準備しているんじゃねえかな」

「わかった」

「南村までなら、ロバで行ってやるぞ」

「オジイ!」

オジイの袖をつかんで走りだした。

南村はイルゴよりもずっと大きい。ロバ車も何台も用意して、まさに出発するところだった。

「よけいなものなんて乗っからねえよ」

迷惑そうな顔をする南村のおじさんたちに、オジイはあたしも連れて行ってもらえるようにたのみこんでくれた。

「そんなこと言わずに、ちょっとすきまを作ってくれよ。この子はきっと、恩を返してくれる子だよ」

「なんでも手伝うわ。荷物の積み降ろしもする」

そのうちに、吹きヒゲの縁談の相手だということに気がついたみたいで、あたしは吹きヒゲのロバ車に乗せてもらえることになった。

「オジイ、ありがと」

「帰りはイルゴ村の車に乗れよ」

「うん、遅くなるけど、みんなと一緒に帰るから」

「これで踊れるなあ」

「うん、オジイ、大好きよ! また腰を揉んであげるからね、水運びもしてあげる」

ウルトの城壁も見えないうちに車が動かなくなってきた。人と動物の頭が道をふさぎ、あちこちでぶつかり合っている。荷車から積み荷がくずれ落ちて、そこでそのまま商売をはじめてしまう者もいる。この砂漠のどこから、これだけの人が湧いて来たのだろう。

やがて砂色の壁がせり上がってきた。ウルト城だ。門をはさんで、二つの塔がそびえている。まだウルトの王が野蛮な親分だったころは、ここから罪人がつき落とされていたというおそろしい塔だ。

そのあいだを抜けると、街があらわれた。城壁は二重で、外壁と内壁のあいだが大路になっている。

市が立ち、商店や宿屋がならんでいる。役人街に武人街、卵の殻に守られるように、外壁の中にすべてがある。

祭りの日には、金持ちや商人は、奥にしまってある家宝をお披露目するのが決まりだ。お宝を一目見ようと、窓はどこも人で埋まっている。

もしも夫婦になったら、この人の一生分のおしゃべりを、あたしは一日でしちゃうんだろうな。

「ありがとね。たすかっちゃった」

そう言って荷車をはなれた。ここから内城に入るには、王族が通る大門のほかは、小さな門が数か所あるだけだ。

しばらく行くと、ひどい混雑が見えてきた。身分の低い者の通れる門はここしかない。木の扉は閂がわたされたまま、一人分ほどのすきまが開けられている。

その前に役人が立って、人々を押し返していた。どうやら許可がおりた者だけが中に入れるようで、あきらめてもどってくる者、役人とつかみ合いになる者、そのすきにちゃっかり入りこもうとしてつまみ出される者もいて、人団子はこんがらがったまま、ふくらんでゆく。まともに順番を待ってたら、とても大演舞には間に合わない。