ついに寝込んでしまった。突然の出来事の原因を探ろうと、あれこれと額を寄せ合う家族を見て、靴屋は少なくとも自分が関係していると思えてきた。皆が寝静まった夜、靴屋はミンの寝床を訪れた。
自分が原因だと考えが及んだ理由を述べて、偶然の運命とはいえ温かい環境に浸かりすぎていたかもしれない。これ以上の迷惑をかけると皆の不幸を呼び寄せることになる。リー家には貴方が必要だから元気を出して、とお願いをした。
ミンは黙ってしばらく目をつむっていたが、静かな声で「貴方の名前はヨハンでなくヨンスさんでしょう」と言って、目を開いた。子供の時以来耳にしたことがない自分の名前を聞いて、靴屋は驚愕の目でミンを見返す。
ミンはやはりという顔をして、次のような話をした。
「貴方が驚くのは当然です。私も昔から今をひもといて、ようやくこの結論にたどり着きました。貴方とヨハン様は双子の兄弟なのです。まあ黙って聞いてください。独裁政治が始まると真っ先に抹殺されるのが反対勢力と文化人です。
貴方の父上と母上は大学の理学と国文学の教授だったのはご存じでしょうか。迫害や強制労働で仲間が次々と姿を消されるのを見て、残された人たちは危険な亡命の道を選んだのです。
助かるか殺されるかの境で、お二人の選んだ方法が、双子のどちらかだけでも生きながらえてもらいたい、ということでした。一人は夫婦が連れていき、もう一人は兄弟のようにしていた従弟の農家リー家に預けることにしたのです。リー家には子供がなかったので、大切にひそかに育てられました。私はそのリー家の執事でした。
ヨハン様の養父母もやはり反対者と見られ、強制労働が原因で亡くなってしまい、私がお育てしてきたのです。ヨハン様は本当の両親や貴方のことは知りません。貴方の今までは想像するだけですが、ご両親は亡くなっていて、それからいろいろあって、貴方は何か大きな目的のためにこの国に来たのでしょう。
顔や体格や声やお歳まで疑問もなくよく似ていましたし、少し違っていても3年の歳月と記憶がないという特殊事情が、疑念を消してしまったのです。」