BROTHER
血縁を全く信じていない私だが、弟のことはいつまでも可愛いのである。
そんな可愛い弟のことを、私が勝手に実家を飛び出し置き去りにしてしまったという罪悪感が未だにある。私も寂しかったが、置き去りにされた弟の寂しさは計り知れない。私は弟のことが大好きだったし、私達はとても仲が良かった。
子供の頃、弟を連れて行った映画が二つある。ジブリの映画とドラえもんの映画。
ドラえもんの映画を観た後、二人ともすっかりハマってしまい、母親のいない隙にいつもビデオを回しては二人でゲラゲラ笑いながら、ドラえもんごっこをしていた。
そんな私達は、親戚の葬式で再会した時、テレビ番組に大笑いして周りの親戚から散々怒られた。しかし、怒られれば怒られるほど、笑いというものは止まらないのである。
不謹慎だと言われて当然だが、葬式での再会はとても楽しかった。私はいつまでも弟が可愛くて仕方がないのだ。本当は、弟だって姉のことが大好きなのだと信じている。
とある正月、私は初めて弟の奥さんを紹介してもらった。三人で新宿で酒を飲んだのだ。弟の奥さんは韓国の女性で、非常に明るく可愛い人だった。豪快にビールを飲み、豪快に笑った。大柄な女性で弟と同じ歳、私より五歳年下だった。
三人兄弟の末っ子という割にはしっかりしていて、私の方が圧倒的に子供っぽかった。弟夫婦は私の話を聞きながら、ゲラゲラ笑った。
「姉ちゃんいつまでそんなガキみたいなこと言ってんの? 馬鹿じゃないの?」
弟はそう言った。
「違うのよ、お姉さんは馬鹿なんじゃなくて純粋なのよ。女だからそれでいいのよ」
弟の奥さんはそう言ってくれた。それで私は本当に安心した。いい奥さんと結婚してくれて本当に良かった。弟が一人で新宿に暮らしている頃は、心配で仕方がなかった。
悪い奴に絡まれていやしないか、あんな人混みの中で人間らしく暮らせているのだろうか。寂しい想いをしているのではないだろうかと。
「何かあったら私が助けてやる」
そう思って正社員になって真面目に働いたこともある。しかし、弟の奥さんに会った時に私は吹っ切れた。
もう心配ないな。ごめんね、姉ちゃんは自由に生きるよ。
「私の弟を宜しくお願いします」
弟が結婚する前のことだ。私は富山県にある自動車メーカーの下請け会社で働いていた。その会社は富山県の射水市というところにあり、私はそこから車で三十分くらいの寮に一人で暮らしていた。
常願寺川の畔にあるそのアパートは、私以外はロシア人しか住んでいなかった。ゴミステーションにはジンとウォッカの空き瓶が山積みになっていて、夏になるとアパートの前では上半身裸で二メートル近くありそうな男達が顔を真っ赤にして酒を飲んでいた。