魚介食材に目覚める

インドのタミルナドゥ州のコインバトールの合弁会社に関わる仕事で、平日はコインバトールに居住し、土日はグルガオンに戻る生活を繰り返していました。

ボーイング737のエコノミー席で片道3時間の移動は、さすがに疲れました。コインバトールでは、ケララ州から魚介が入ってきているのと、イスラム教徒とキリスト教徒が多いので、牛肉、豚肉は地元産が手に入りました。

肉から切り落とした脂肪でラードも自家製造しました。ラードでの揚げ物はおいしく、健康面でも低リスクです。野菜の種類が少ないので、時折、グルガオンから持っていきました。

魚は南インドでは、VEGとみなされ、北インドではNONVEGとみなされます。インドのベジタリアンは、乳製品で動物性たんぱく質をとるので、今流行のビーガンではありません。

このころ、チェンナイ近郊の世界遺産・海岸寺院のラディソンブルホテルの横にある魚市場と伊勢海老屋に足を向け、生きた伊勢海老と魚を持ち帰って食べました。

当時、伊勢海老は3匹(1㎏)が2000INR(約3000円)で、行くたびに店の生け簀すべての伊勢海老を買って、自分でさばきました。食べきれない分は冷凍保存です。

生きたままの伊勢海老を飛行機で持ち帰るコツは、クルマエビと同じで、湿った新聞紙や、おがくずで目を乾燥させないことが要点です。持ち帰ったら、3%塩分の塩水に入れて汚れを取ります。

さばきかたについては、日本語の動画をインターネットで見ることができます。伊勢海老5㎏をグルガオンの日本人の同僚にご馳走したら、英雄扱いされたものでした。

先に述べた海岸寺院のあたりは漁師村で、漁師さんからアジを買って、開いて塩をふって干物を作ることもありました。西インドのムンバイも海に面しているため漁港があって、エビ、カニ、魚が手に入ります。

こうして魚介食材に目覚めると、寿司が食べたくなり、かのすきやばし次郎さんの本を買い込んで、休みの日にシャリの炊き方、握り方を勉強しました。

魚は自分でおろせたし、コメは電気釜ではなく土鍋で炊いていたので、あまり苦にはなりませんでした。回転寿司レベルであれば、今でも自分で握れます。

デリー近郊はネタが乏しいので、自分で作って満足できるのは、薄板昆布を使ったバッテラの箱ずしくらいです。塩サバは、バンコク出張で買って帰り、酢でしめて冷凍庫に保存します。

デリーの日本食材店で売っている刺身用の冷凍の魚は、解凍の際に魚の味が抜けてしまい、楽しむには限界があります。たまたま東京に出張があって、銀座の久兵衛本店の寿司を味わいました。

これが江戸前の味かと、うなったものです。今ではそういう欲望もなくなり、前述のとおり玄米、大麦、豆、野菜、卵で食材はこと足りています。

このコインバトールの合弁会社も、自分の手で他の会社に吸収合併させて清算したので、もうコインバトールに行くことはありません。この合弁会社は、設立の建付けが複雑で運営に苦労しましたが、そのお話は別に譲ります。